たった一つの林檎で、世界大戦を引き起こした「不和」の女神エリス。彼女は武器を取って戦うのではなく、人々の心に潜む嫉妬や対抗心に火をつけることで、国々を滅ぼすほどの争いを生み出します。
エリスとはどのような神か?
エリスは争いと不和の女神で、夜の女神ニュクスの娘、あるいは軍神アレスの妹(または娘)とされます。戦場では常にアレスに付き従い、血なまぐさい争いを喜び、戦士たちの憎しみを煽ります。彼女は神々からも人間からも忌み嫌われますが、詩人ヘシオドスは、彼女には「破壊的な争い」だけでなく、人間に「良い競争心(あちらのエリス)」を与えて、仕事や芸術に励ませる側面もあると説いています。
神話での伝説とエピソード
黄金の林檎
英雄ペレウスと女神テティスの結婚式に、神々の中でただ一人招かれなかったエリスは激怒しました。彼女は腹いせに、「最も美しい女神へ」と書いた黄金の林檎を宴席に投げ込みました。これを巡ってヘラ(権力)、アテナ(知恵・戦勝)、アフロディーテ(美・愛)の三女神が激しく争い、最終的にトロイアの王子パリスによる審判を経て、トロイア戦争という大惨事に発展しました。たった一個の果物が、数多の英雄と一つの王国を滅ぼしたのです。
恐怖の眷属
彼女には、労苦(ポノス)、飢餓(リモス)、殺戮(フォノス)、忘却(レテ)といった、人間にとってありがたくない子供たちが多数います。
現代作品での登場・影響
ディスコルディア
ローマ神話では「ディスコルディア」と呼ばれます。1960年代以降、この女神を崇拝(あるいはパロディ化)する「ディスコーディアニズム」という宗教運動が生まれ、カオスマジックやネット文化における「混沌の象徴」としてカルト的な人気を博しました。
ドリームワークス『シンドバッド』
アニメ映画ではメインヴィランとして登場し、星座を操ったり、流動的な動きで主人公を翻弄したりと、カオス的で魅力的な悪女として描かれました。
【考察】その強さと本質
争いの連鎖
些細な火種や嫉妬が、誰も止められない大火事になる。エリスの林檎は、人間の虚栄心と嫉妬がある限り、現代のSNSや国際情勢など、どこにでも転がっているのです。彼女は外部の敵ではなく、私たちの内部にある「不和の心」そのものと言えます。
まとめ
彼女の囁きに耳を貸してはいけません。その先にあるのは、終わりのない泥沼の争いだけなのですから。黄金の林檎を拾う前に、一度立ち止まって考えるべきです。