古代ギリシャ最大の戦争「トロイア戦争」。数多くの英雄が散っていったこの悲劇の引き金となったのは、たった一人の青年の選択でした。トロイアの第二王子パリス。勇猛な戦士というよりは、女性を虜にする美貌と優柔不断さで知られる彼は、なぜ国を傾けるほどの愛に走ってしまったのか。有名な「パリスの審判」から、最強の英雄アキレウスを射殺す大金星、そして彼自身の哀れな最期までを紹介します。
パリスの審判と黄金の林檎
最も美しい女神へ
女神たちの結婚式に投げ込まれた「最も美しい女神へ」と書かれた黄金の林檎。これを巡ってヘラ、アテナ、アフロディーテの三女神が争い、その判定役(審判)に羊飼いをしていたパリスが選ばれました。ヘラは「権力」を、アテナは「戦いの勝利」を、アフロディーテは「世界一の美女」を彼に約束しました。
権力よりも勝利よりも愛を選んだパリスは、アフロディーテを選び、その対価としてスパルタ王妃ヘレネを与えられました。しかし、人妻を略奪したこの行為が、ギリシャ全土を巻き込む大戦争の火種となってしまったのです。彼は欲望に忠実すぎたがゆえに、故郷トロイアを滅亡へと導くことになりました。
英雄殺しと因果応報
踵を射抜く矢
戦争中、パリスは勇者ヘクトル(実の兄)のように前線で戦うことは少なく、むしろ臆病者と罵られることもありました。しかし、戦況を決定づけたのは彼の一矢でした。アポロンの導きにより、彼が放った矢はギリシャ軍最強の英雄・アキレウスの唯一の弱点である踵(かかと)を射抜き、彼を討ち取ったのです(アキレス腱の語源)。
しかし、彼自身もまた無事では済みませんでした。ギリシャ軍の名手ピロクテテスの毒矢を受け、瀕死の重傷を負います。彼はかつて捨てた最初の妻・オイノネに助けを求めましたが、嫉妬と恨みから拒絶され、苦しみの中で息絶えました。オイノネはその後、後悔して自らも命を絶ったと伝えられています。
まとめ
美しさが罪となるならば、パリスこそが最大の罪人かもしれません。彼の物語は、個人の情熱が国家の運命さえも狂わせてしまうこの世の不条理を、鮮烈に描き出しています。