嵐の海で船乗りたちが最も恐れたもの。それは深海に潜む女神ランの「網」でした。彼女に捕らえられた者は、二度と還ることはありません。美しくも残酷な、北欧の海の死神。
ランとはどのような神か?
北欧神話の海の女神で、巨人の海神エーギルの妻です。彼女は溺死した人間を集めるのが趣味で、自ら巨大な網を持って海に現れ、船を転覆させて船乗りたちを攫っていきます。彼女の海底宮殿には、そうして集められた死者たちが住んでいるとされ、ヴァルハラ(戦死者の館)に行けなかった海の男たちの行き着く先と信じられていました。
神話でのエピソード
黄金の輝き
海面がキラキラ光るのは、海底にあるエーギルとランの宮殿の黄金が輝いているからだと言われます。そのため、北欧の詩では黄金のことを「ランの炎」「エーギルの火」と呼ぶことがあります。
9人の娘
彼女には9人の娘(波の乙女)がおり、それぞれが様々な種類の「波」を象徴しています。美しいが気まぐれで、時に激しく船を襲う娘たちは、母親譲りの恐ろしさを持っています。
信仰と文化への影響
船乗りの迷信
ヴァイキングたちは「ランの網にかからないように」と、航海に出る前に黄金を持っていく風習があったと言われます。もし溺れても、黄金を手土産にすればランに気に入られて宮殿で厚遇されると信じたのです(地獄の沙汰も金次第、の海洋版です)。
現代のラン
ゲームなどでは、水属性の魔法使いや、妖艶な悪女として描かれることが多いです。水の美しさと、死の恐怖を併せ持つキャラクターとして人気があります。
【考察】その本質と象徴
自然の驚異
ランは、人間の力ではどうにもならない「海の理不尽な暴力」の化身です。彼女が悪意を持って網を広げるのではなく、それが海の性質であるがゆえに、より根源的な恐怖を感じさせます。
まとめ
海が凪いでいる時、それは彼女が網を繕っている時間なのかもしれません。嵐の予兆は、彼女の不吉な笑い声なのです。