頭上に猛毒のサソリを戴く女神セルケト。彼女はその猛毒で敵を葬り去る恐ろしい存在であると同時に、毒に苦しむ人々を救う慈悲深い治癒の神でもあります。毒をもって毒を制す、医療の原点がここにあります。
セルケトとはどのような神か?
セルケト(セルケット)は、サソリの姿、あるいは頭にサソリを乗せた女性の姿で描かれるエジプトの女神です。彼女の名は「呼吸させる者」を意味し、サソリに刺されて窒息(呼吸困難)しかけた人々を回復させる力を持ちます。砂漠地帯であるエジプトにおいて、毒サソリは日常的な死の脅威でした。そのため、サソリを支配する彼女は、人々の生死を握る重要な神として崇拝されました。イシス、ネフティス、ネイトと共に、死者を守る4柱の女神の一画を担い、特に王の守護者としての地位を確立しています。
神話での伝説とエピソード
幼きホルスの守護
女神イシスが幼いホルスを隠し育てていた時、セトの刺客から彼らを守るために7匹のサソリを従えて警護しました。ある時、裕福な女性がイシスの使いのサソリを追い払ったため、サソリは彼女の息子を刺しました。しかし、イシスが呪文を唱えると毒は消え、息子は助かりました。この時、セルケトはイシスの魔力を補佐し、毒を中和する役割を果たしました。
死者の守護
ミイラの内臓を収めるカノプス壺のうち、腸を守るケベフセヌエフ(ハヤブサの姿)の守護神として、死者が無事に死後の世界へ行けるよう見守っています。ツタンカーメン王の墓からも、四隅を守る金色の女神像の一人として、見事なセルケト像が発見されています。
現代作品での登場・影響
現代作品での活躍
『Fate/Grand Order』では、ニトクリスの友として登場する場面などが見られ、ファラオを守護する強大な女神として描かれています。また、ゲーム『パズル&ドラゴンズ』などのソーシャルゲームでも、毒ドロップを生成したり、毒耐性を持つキャラクターとして実装されることが多く、その能力は現代のゲームシステムにもよく適合しています。
医療のシンボル
古代エジプトにおいてサソリ使い(蛇使いならぬ)は「セルケトの神官」と呼ばれ、事実上の医師として活動していました。彼女は現代における救急救命医の守護神とも言えるでしょう。
【考察】その強さと本質
毒と薬の両義性
毒は使い方次第で薬にもなります。セルケトは、死をもたらす「毒」を完全に支配することで、逆説的に「生(治癒)」をもたらすという、医療の根本原理を体現しています。彼女の存在は、脅威となる自然の力さえも、理解し制御することで味方にできるという古代人の知恵を象徴しています。
まとめ
美しくも危険なサソリの女神。彼女の毒針は、敵には確実な死を、信徒には起死回生の命を与えます。砂漠の夜にサソリを見かけたら、それは彼女があなたを守りに来た合図かもしれません。