ハートを射抜く「キューピッドの矢」といえば、ロマンチックな恋の始まりをイメージするでしょう。しかし、オリジナルの神話におけるエロスの矢は、もっと恐ろしく、理不尽な強制力を持った**「呪いのアイテム」**です。神々さえも逆らえない、この小さな矢の威力について紐解いていきます。
金と鉛、運命の二択
黄金の矢(愛)
鋭く尖った金の矢。これに射抜かれた者は、最初に見た相手に対して、どうしようもないほどの激しい恋心を抱きます。それは理性で抑えられるものではなく、「発狂」に近い状態です。
鉛の矢(拒絶)
鈍く重い鉛の矢。これに射抜かれた者は、愛や恋そのものを蛇蝎(だかつ)のごとく嫌うようになります。どんな魅力的な相手からの求愛も、生理的な嫌悪感を持って拒絶するようになります。この二つの矢が同時に使われた時、救いようのない悲劇が生まれるのです。
神々をも狂わせる力
アポロンの失恋
太陽神アポロンは、エロスの弓術を馬鹿にした報復として「金の矢」で撃たれ、ニンフのダフネへの愛に狂いました。一方、ダフネは「鉛の矢」で撃たれていたため、アポロンから逃げ続け、最後には月桂樹へと姿を変えました。どんなに偉大な神も、エロスの悪戯(というより復讐)からは逃れられなかったのです。
エロス自身の「うっかり」
ある時、エロスは母アフロディーテの言いつけで、人間の娘プシュケを醜い怪物と恋に落とさせようとしました。しかし、誤って自分の指を「金の矢」で傷つけてしまい、あろうことかエロス自身がプシュケに恋をしてしまいます。人を呪わば穴二つ、愛の神自身も愛の虜になってしまったのです。
【考察】恋は病気か?
制御不能な感情のメタファー
古代の人々は、突然湧き上がりコントロールできなくなる「恋」という感情を、外部から飛んできた「矢(=病原体)」による感染と考えたのかもしれません。「胸が痛む」「ハートを射抜かれる」という表現は、まさにこの神話的イメージから来ています。エロスの矢は、理性を破壊する最強の精神攻撃と言えるでしょう。
まとめ
エロスの矢は、誰かを幸福にすることもあれば、地獄の苦しみを味わわせることもあります。もし道端で翼の生えた少年を見かけても、決してその弓を馬鹿にしてはいけません。次はあなたが標的になるかもしれないのですから。