翼の生えたこめかみ、手には眠りを誘う芥子(ケシ)の花束と、忘却の川の水が入った角杯。眠りの神ヒュプノスは、音の無い世界で静かに暮らしています。彼の力は絶対的で、最高神ゼウスですら彼の魔法にかかればまぶたを閉じてしまいます。「ヒプノセラピー(催眠療法)」の語源ともなった彼のミステリアスな正体に迫ります。
眠りの洞窟と夢の子供たち
レテの川
ヒュプノスの住処は、冥界のさらに奥、日光が一切届かない洞窟の中にあります。そこには静寂だけがあり、入口には眠気を誘う草花が一面に咲き乱れています。洞窟の中を流れるのは「レテ(忘却)の川」。この水を飲めば、さらさらと流れる川の音と共に、全ての悩みと記憶を忘れて深い眠りに落ちるのです。
夢の神モルペウス
彼には「オネイロス(夢)」と呼ばれる子供たち(または兄弟)がいます。人の姿をした夢を見せるモルペウス、動物の姿をとるイケロス、無生物に変わるパンタソスらが、眠っている人間の元へ飛んでいき、様々な夢を見せると言われています。
エンディミオンへの愛
永遠の眠り
月の女神セレネ(あるいはアルテミス)が恋した美少年エンディミオン。彼を老させないために、ヒュプノスは彼に「永遠の眠り」を与えました(一説ではヒュプノス自身が彼に恋をしたためとも)。さらに、眠っている彼が目を覚まさなくても見えるように、まぶたを開かせたまま眠らせる能力まで与えたと言われています。美しいものを永遠に保存したいという、少し歪んだ愛情の表れかもしれません。
ゼウスをも眠らせる力
ヘラとの結託
トロイア戦争の際、彼は女神ヘラに頼まれてゼウスを眠らせ、その隙に戦況を操作するという大役を果たしました。一度はバレて激怒されましたが、母である夜の女神ニュクスのとりなしで許されました。神々の王でさえ、眠気には勝てないのです。
まとめ
忙しない現代社会において、ヒュプノスの誘いは最も贅沢な癒やしかもしれません。彼が角杯から注ぐ滴を一滴でも浴びれば、そこには甘美な静寂が待っています。