サテュロス(Satyr)は、ギリシャ神話に登場する山野の精霊で、上半身が人間、下半身がヤギ(または馬)の姿をした半人半獣の種族です。 酒と音楽、そして女性をこよなく愛する陽気な快楽主義者として描かれ、豊穣神ディオニュソス(バッカス)の従者として知られています。
欲望に忠実な自然児
典型的なビジュアル
頭にはヤギの角と尖った耳を持ち、毛むくじゃらの下半身に蹄を持っています。常に勃起した男根と共に描かれることが多く、これは彼らの尽きることのない性的欲求と、自然界の奔放な生命力(豊穣)を象徴しています。
牧神パンとの混同
よく似た姿の神に「牧神パン」がいます。パンは個別の神の名前ですが、サテュロスは種族全体の名前です。ローマ神話の「ファウヌス」とも同一視され、これらが混ざり合って現代のファンタジーにおける「サテュロス(ヤギ男)」のイメージが形成されました。
神話での役割
宴の盛り上げ役
ディオニュソスの宴会(バッカナリア)には欠かせない存在で、ニンフ(妖精)たちを追いかけ回したり、アウロス(二本笛)を吹いて踊り狂ったりします。理性を捨てて本能のままに生きる象徴であり、秩序を重んじるアポロン的な世界観とは対極に位置します。
サテュロス劇
古代ギリシャの演劇コンクールでは、悲劇三部作の後に、サテュロスたちが登場する滑稽で下品な喜劇「サテュロス劇」が上演されました。これは観客の緊張をほぐすための重要なエンターテイメントでした。
現代ファンタジーでのサテュロス
賢者か好色家か
C.S.ルイスの『ナルニア国物語』では、主人公を助ける善良なタムナスさんが(姿形のベースとして)有名です。一方で、多くのRPGやゲームでは、棍棒を持った獣人モンスターとして登場したり、魅了攻撃をしてくる敵として扱われることもあります。
悪魔のイメージへ
キリスト教の普及に伴い、ヤギの角と蹄を持つサテュロスの姿は「悪魔」のビジュアルイメージの借用元となりました。バフォメットなどの悪魔像には、サテュロスの特徴が色濃く残っています。
【考察】なぜヤギなのか
性的なエネルギー
古代においてヤギは性的に旺盛な動物と考えられていました。自然の繁殖力や生命力を神格化する際、ヤギの特徴を持つことは、豊作や子孫繁栄を願う人々にとってポジティブなシンボルだったのです。
まとめ
サテュロスは、人間の中に眠る「理性を忘れて楽しみたい」という野性的な願望を体現した存在です。彼らの笛の音が聞こえたら、それは理屈を捨てて踊り出せという合図かもしれません。