古代インドの寺院の入り口や、仏教寺院の装飾を注意深く見ると、長い鼻を持つ不思議な怪物の像が彫られていることによく気づきます。それがマカラです。彼は水を司る聖獣であり、愛と豊穣をもたらす守護者として、はるか昔からアジア全域で愛され、畏れられ続けています。その姿は一見グロテスクですが、神聖な力の象徴なのです。
奇妙な合成獣
空想のワニ
マカラの姿のベースはワニ(特にインドに生息するガビアル)ですが、単なるワニではありません。象のように長い鼻(あるいはバクの鼻)、とぐろを巻く魚の尾、時には猪の牙や孔雀の華やかな羽を持つ、極めて複雑なキメラ(合成獣)として描かれます。これは、マカラがあらゆる生物の要素を内包した、生命の源である「水」そのものの象徴だからです。その口からは、しばしば蓮華の花や真珠、あるいは植物の蔓などが吐き出されている様子が描かれており、これは水から生まれる尽きることのない生産力と、終わりのない豊かさを表しています。
神々の乗り物
彼は水神ヴァルナや、聖なる川の化身であるガンガー女神のヴァーハナ(乗り物)として仕えています。神々を背に乗せて悠然と大河を泳ぐその姿は、絶対的な忠誠心と、神さえも支える強力な保護力を表しています。また、愛の神カーマの旗印(マカラ・ドヴァジャ)でもあり、マカラは愛欲の執念深さや、一度噛み付いたら決して離さないワニのような愛の力強さも象徴しているのです。
日本への伝来
摩伽羅(まから)とシャチホコ
仏教の伝播と共にマカラも日本に伝わり、「摩伽羅」という名の海獣となりました。日本刀の柄の装飾や、普茶料理の意匠としても見られます。さらに興味深い有力な説として、日本の城の屋根にある「鯱(シャチホコ)」の起源の一つがこのマカラであると言われています。水を自在に呼ぶ力があるマカラを屋根の頂点に置くことで、城を火災から守る「火除けの守り神」として信仰されたのです。海を隔てた日本でも、マカラは形を変えて私たちを守っているのです。
まとめ
マカラは、恐ろしいワニが神聖な守護者へと昇華された存在であり、国境を超えてアジアの人々の生活の中に溶け込んでいる水のシンボルです。その姿は、水がもたらす恵みと災いの両面を静かに伝えています。