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クラーケン

伝説の海獣クラーケン:船を沈める悪魔と巨大イカ伝説の真実

クラーケン / Kraken

クラーケン

Kraken
北欧伝承海洋生物 / 軟体動物
危険度★★★★
大きさ大小の島ほど (数km)
特殊能力強力な触手、墨、渦潮を起こす
弱点乾燥、切断、頭部への攻撃
主な登場
パイレーツ・オブ・カリビアンタイタンの戦いファイナルファンタジー

静かで穏やかな海面が突如として盛り上がり、無数の巨大な触手が現れて船をマストごとへし折る。そして逃げ惑う船乗りたちを次々と深海へ引きずり込んでいく——。船乗りたちが最も恐れた「海の怪物」、それがクラーケンです。 現代のファンタジー作品や映画では、巨大イカやタコとして描かれることが一般的ですが、古い伝承を遡ると、その姿は「浮上すると島と間違われるほどの大きさ」とされ、時には魚や蟹、あるいは形容しがたい不定形の怪物として語られることもありました。 大航海時代、未知の海へと漕ぎ出した人々の「深海への恐怖」が具現化したこの怪物の正体とは何だったのか?そして、なぜこれほどまでに世界中で語り継がれるようになったのか?その伝説の起源と、現代の海洋生物学との意外な関連について詳しく解説します。

島と間違われる怪物

誤って上陸する船乗りたち

18世紀のデンマークの司教エリック・ポントピダンが記した『ノルウェー博物誌』には、クラーケンに関する非常に詳細な記述が残っています。それによれば、クラーケンの背中は周囲1.5マイル(約2.4km)もあり、海面に浮上しているときは、海藻や貝殻に覆われた背中が、まるで沢山の小島が集まっている群島のように見えたといいます。 何も知らない船乗りたちは、それを新しい島だと思って上陸し、船を停泊させ、焚き火をして休息をとります。すると、背中で火を焚かれた熱さに驚いたクラーケンが海中に潜り始めます。船乗りたちはそこで初めて自分が怪物の上にいたことに気づきますが、時すでに遅く、クラーケンが潜る際に発生する巨大な渦潮に船ごと巻き込まれて溺れ死んでしまうのです。 この「島だと思ったら怪物だった」というエピソードは、アラビアンナイトの「シンドバッドの冒険」に登場する巨大魚や、聖ブレンダンの航海譚にも共通する、世界中の海洋奇譚における普遍的なモチーフです。

触手と墨の恐怖

クラーケンの最大の武器は、軍艦のマストよりも太く長い触手です。これを使って船体を締め上げて破壊し、船員たちを捕食します。もし触手で絡め取れなかったとしても、彼が周囲を泳ぎ回るだけで巨大な渦が発生し、あらゆる船はコントロール不能に陥ります。 また、クラーケンは危険を感じると大量の墨を吐き出し、周囲の海を真っ黒に染めて姿をくらませるとも言われています。ノルウェーの漁師たちの間では、海が不自然に黄色く濁っていたり、魚が異常に集まったりしている場所は「クラーケンの真上」であるとされ、大漁のチャンスであると同時に、いつ怪物が目覚めるかわからない死と隣り合わせの場所として恐れられました。

映画スターとしてのクラーケン

パイレーツ・オブ・カリビアン

映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』では、幽霊船フライング・ダッチマン号の船長デイヴィ・ジョーンズの忠実なペット(処刑人)として登場します。クラーケンはデイヴィ・ジョーンズの命令に従い、海賊たちを襲います。ジャック・スパロウのブラックパール号を襲うシーンは映画史に残る迫力で、吸盤の一つ一つが鋭い歯を持つ口のようになっているグロテスクなデザインが特徴的でした。船を両側から挟み込んで粉砕するその様は、まさに絶望そのものです。

タイタンの戦い

ギリシャ神話を題材にした映画『タイタンの戦い』にも登場しますが、ここでは北欧伝承のクラーケンが、なぜかギリシャ神話の世界で「神々が遣わす最強の処刑人」として採用されています(本来はケートスという別の鯨のような怪物であるべき役どころです)。 「クラーケンを放て!(Release the Kraken!)」というゼウス(リーアム・ニーソン)の力強いセリフは、そのインパクトからインターネット・ミームとなり、圧倒的な力を解放する際の定型句として世界中で使われるようになりました。

【考察】正体はダイオウイカ?

リアル・モンスター

現在では、クラーケンの伝説の多くは、実在する深海生物「ダイオウイカ」の目撃談が誇張されたものだと考えられています。ダイオウイカは最大で18メートルにも達すると言われ、世界最大級の無脊椎動物です。 海岸に打ち上げられた巨大なイカの死体や、マッコウクジラの皮膚に残された巨大な吸盤の痕を見た昔の人々が、「深海にはこれよりもっと巨大な、山のように大きな怪物がいるに違いない」と想像を膨らませたのも無理はありません。 実際、マッコウクジラとダイオウイカは深海で死闘を繰り広げることが知られており、海面に浮上してきたその戦いの様子は、まさに神話の怪物同士の戦いのように見えたことでしょう。 1755年にカール・フォン・リンネが分類学を提唱した際、クラーケンを「Microcosmus marinus(海の縮図)」という学名で実在の生物として登録しようとしたこともありました(後に削除)。クラーケンは、ただの空想ではなく、未知の生物への科学的な探求心の入り口でもあったのです。

まとめ

クラーケンは、人間がまだ征服できていない「海」という大自然の恐怖と、そこに眠る神秘への好奇心が生み出した究極のモンスターです。科学が発達し、ダイオウイカの撮影に成功した今でも、私たちは深い海の底に、まだ見ぬ超巨大生物が潜んでいることを心のどこかで期待し、恐れているのです。