「剣を取る者は、皆剣で滅びる」。イエス・キリストがこの有名な言葉を残したきっかけとなった剣があります。それが、一番弟子ペテロが振るった短剣です。ただの護身用の武器が、なぜ伝説の聖剣と結びつき、ポーランドの国宝として崇められるようになったのか。その数奇な運命を辿ります。
ゲッセマネの園での一撃
耳切り事件
『ヨハネによる福音書』などによれば、イエスが逮捕されようとした時、ペテロはとっさに剣を抜き、大祭司の召使いマルカスの右耳を切り落としました。しかしイエスは彼を制止し、切られた耳を癒やしたとされています。このエピソードにより、この剣は「熱意の暴走」と「暴力の否定」という二重の意味を持つ聖遺物となりました。
聖剣への転生
ジョワユーズとの同一視
伝説によると、この剣は後にローマ教皇の手に渡り、フランク王国のシャルルマーニュ大帝に贈られたと言われています。そして、大帝の愛剣「ジョワユーズ(Joyuse)」の中に、このペテロの剣の破片が埋め込まれた、あるいは鍛え直されたという伝承が生まれました。漁師のナイフが、欧州最強の皇帝の聖剣の一部になったというのです。
ポズナンの宝物
現在、ポーランドのポズナン大聖堂には「聖ペテロの剣」とされる古い剣が保管されています。形状は「ファルシオン」に近く、実際に1世紀頃のローマ時代の剣である可能性も指摘されていますが、真偽は定かではありません。
【考察】武器を持つ聖職者
矛盾の象徴
ペテロは初代教皇とされますが、その彼が武器を持っていたという事実は、後の十字軍や騎士団にとって「正義のための武力」を肯定する根拠として利用されました。平和を説く教えと、武器を持つ現実。この剣は、キリスト教が抱える永遠のジレンマを体現しているとも言えます。
まとめ
聖ペテロの剣は、主を守りたいという純粋な愛と、それが暴力に変わる危うさの両方を秘めています。錆びついたその刃は、今も私たちに「正義とは何か」を問いかけているようです。