毎日、東の空から昇り、西の空へと沈む太陽。古代の人々は、それを神が御する「炎の戦車」だと考えました。しかし、この強大すぎるエネルギーを御することは、神にとってさえ容易なことではありませんでした。今回は、世界を焼き尽くしかけた未曾有の交通事故、パエトーンの悲劇とともに、太陽の戦車の凄まじさを紹介します。
世界を照らす黄金の車
4頭の火馬
太陽神ヘリオス(後にアポロンと習合)が駆るこの戦車は、**ピュロイス(火)、エオウス(早朝)、アエトン(燃えるもの)、プレゴン(燃え盛るもの)**という名の4頭の神馬によって引かれています。彼らは鼻孔から火を吹き、空を飛ぶ力を持ちますが、その気性は荒く、主人の命令しか聞きません。
黄金の輝き
戦車自体も純金と宝石で作られており、まばゆい光を放ちます。これが地上の人々が見ている「太陽」の正体です。夜の間は、大地の周りを取り巻くオーケアノス(大洋)の流れに乗って、黄金の盃に入って東の宮殿へと戻ると考えられていました。
パエトーンの墜落事故
息子のおねだり
ヘリオスの息子パエトーンは、自分が太陽神の子であることを証明するため、父に「一度だけ戦車を運転させてほしい」と懇願しました。ヘリオスは危険すぎると止めましたが、息子の熱意に負け、手綱を預けてしまいます。これが世界の終わりの始まりでした。
地上を焼き尽くす暴走
案の定、馬たちは御者が主人でないことに気づき、暴走を始めました。軌道を外れた戦車は、地表に近づきすぎて山々を燃やし、川を干上がらせ、リビアを砂漠に変え、エチオピア人の肌を黒く焼いてしまいました。見かねた主神ゼウスは、世界を守るために雷霆(ケラウノス)を投げつけ、パエトーンごと戦車を撃ち落としました。無免許運転の代償は、あまりにも大きなものでした。
【考察】制御不能なエネルギー
核エネルギーのメタファー?
太陽の戦車の物語は、「身の丈に合わない強大な力」を扱おうとすることの危険性を説いています。現代においてそれは原子力やAIに置き換えられるかもしれません。恩恵をもたらす光も、制御を失えば全てを滅ぼす業火となる。古代の警句は今も色褪せていません。
まとめ
太陽の戦車は、私たちに光と熱を与える生命の源ですが、一歩間違えば破滅を招く恐怖の兵器でもあります。空を見上げるとき、そこに神の御の手綱さばきを想像してみてはいかがでしょうか。