最強の狼フェンリルを封印したのは、頑丈な鉄の鎖ではなく、リボンのように柔らかい一本の紐でした。グレイプニルは、物理法則を無視した魔法の拘束具です。オーディンからの依頼を受けた闇の妖精(ドワーフ)たちが作り上げたこの紐は、北欧神話における「柔よく剛を制す」の極致とも言えるアイテムです。一見すると無害な紐に見えるため、相手を油断させる罠としても機能しました。神々でさえ手に負えなかった怪物を抑え込んだ、究極の封印具の秘密に迫ります。
ありえない6つの材料
存在しないものの集大成
ドワーフたちは、この紐を作るために以下の「この世に存在しない6つのもの」を集めました。
- 猫の足音
- 女性の髭
- 山の根
- 熊の腱
- 魚の息
- 鳥の唾液 これらは本来存在しない、あるいはあり得ないものです。「存在しないもの」で作られているからこそ、「破壊する方法も存在しない」という論理的パラドックスによって最強の強度を得ているのです。魔法的な言葉遊びが現実の力を持つ、北欧神話らしいアイテムです。ちなみに、これらの材料を使われたため、もともとあったはずの「猫の足音」などが世界から消えてしまったとされています。
だから猫には足音がない
神話によると、この時に素材として使い果たしてしまったため、今の猫には足音がなく、女性には髭がないのだと説明されています。神話的な由来と、現実の観察を結びつけた、面白い起源説話です。日常の風景の中に神話の痕跡を見出すことができるエピソードです。
フェンリルへの挑戦
最後の賭け
フェンリルは鉄の鎖を次々と破壊しましたが、この柔らかい紐を見た時「魔法がかけられているのではないか」と疑いました。テュール神が腕を口に入れることを条件に拘束を受け入れ、フェンリルが力を込めれば込めるほど紐は硬く締まり、ついに封印に成功しました。結果としてテュールは腕を失いましたが、世界の平和は守られたのです。だまし討ちのような形での勝利は、北欧の神々の影の部分も表しています。
まとめ
力には力で対抗せず、知恵と魔法で制する。グレイプニルは、北欧神話のトリッキーな側面を象徴するアイテムです。不可能を可能にするのは、いつだって常識外れの発想なのかもしれません。