清らかな水を司る、ペルシャ神話の美しい女神。星々よりも高くにある水源から降り注ぎ、大地を潤し、英雄たちに勝利を授ける。その名は「汚れなき者」を意味します。
アナーヒターとはどのような神か?
古代イラン(ゾロアスター教)において極めて重要な女神です。正式名は「アルドヴィー・スーラ・アナーヒター(湿潤にして強力なる清浄)」。全ての水の源泉であり、川や湖、雨を司ります。豊穣、治癒、知恵の女神としても信仰され、特に王権の守護者として歴代のペルシャ王たちに崇拝されました。黄金の冠を被り、ビーバーの毛皮のコートを着た美しい乙女の姿で、風・雨・雲・雹という4頭の馬が引く戦車に乗っています。
神話でのエピソード
悪魔退治の支援
多くの英雄(スラオシャや、後の伝説の王たち)が、戦いの前に彼女に生贄を捧げて勝利を祈願しました。彼女は正義の側に力を貸し、悪魔や竜(アジ・ダハーカ)との戦いを支援しました。
ギリシャ・ローマへの影響
彼女の信仰は西方へ広がり、アルテミスやアフロディーテ、イシュタルなどの女神と習合あるいは影響を与え合ったと考えられています。
信仰と後世への影響
ミトラとの並走
太陽神ミトラと並んで、アフラ・マズダーに次ぐ崇拝を集めました。ササン朝ペルシャのレリーフには、王に王冠を授ける彼女の姿が刻まれています。
現代のイラン
「ナーヒード(Nahid)」という名前は金星を指し、イランの女性名として今も一般的です。
【考察】その本質と象徴
水の聖性
砂漠の多いイランにおいて、水は生命そのものです。彼女が「清浄」であることは、水が穢れを洗い流す力を持つことの象徴です。
ビーバーの犠牲
彼女にビーバーの毛皮を捧げることは最高の供物とされましたが、みだりにビーバーを殺すことは重罪とされました。この矛盾は、彼女の聖獣であるビーバーが水の清浄さを保つ重要な生き物と考えられていたためで、儀礼的な狩猟のみが許されていました。
まとめ
彼女の流れは止まることなく、数千年の時を超えて、渇いた魂を潤し続けています。