三種の神器のうち、剣(草薙の剣)は海に沈み(または熱田にあり)、鏡(八咫鏡)は伊勢神宮にありますが、**八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)**だけは、古代から一度も紛失することなく、オリジナルの実物が皇居の奥深くに存在すると信じられています。天皇陛下の即位の礼「剣璽等承継の儀」でも使用される、まさに日本最古級のロイヤル・ジュエリーです。
長い名前の意味と形状
巨大で赤い玉
「八尺(やさか)」というのは、物差しのような長さではなく「弥栄(いやさか)」に通じる、あるいは単に「とても大きい」ことを意味します。「瓊(に)」は赤色(赤メノウなど)の玉であることを意味します。つまり「大きくて立派な赤い勾玉」ということです。勾玉の独特な形は、動物の牙、胎児、月、あるいは魂の形自体を模していると言われ、縄文時代から続く日本独自の呪術的な守りアイテムです。
引きこもりの神を誘い出す
天岩戸作戦での役割
弟スサノオの乱暴狼藉に拗ねて、太陽神アマテラスが天岩戸に引きこもってしまった際、世界は真っ暗闇に包まれました。困り果てた神々は、どんちゃん騒ぎの祭りを行ってアマテラスの気を引こうとします。その時に作られ、八咫鏡と共に榊(さかき)の枝に飾られたのが、この勾玉の首飾り(五百津御すまるの珠)でした。
玉祖命の傑作
この玉は、**玉祖命(たまのおやのみこと)**という工芸の神様が作ったとされています。キラキラと輝く美しい玉は、鏡とともにアマテラスの好奇心を刺激し、岩戸を少し開けさせるきっかけとなりました。その後、ニニギノミコトの天孫降臨に際して授けられ、地上の支配者の証となったのです。
継承される慈愛の心
璽(じ)としての役割
三種の神器において、剣は「武力(勇気)」、鏡は「知恵」を象徴するのに対し、勾玉は**「慈悲(仁)」**を象徴すると解釈されることがあります。武力で制圧するだけでもなく、知恵で欺くだけでもなく、柔らかな心を持って民を治めることこそが、真の統治者にとって不可欠な要素であるという、古代人からのメッセージが込められているのかもしれません。
まとめ
ガラスケースの中ではなく、今もなお皇位継承という国家の最重要儀式で使用され続ける生きた神話。八尺瓊勾玉は、数千年の時を超えて受け継がれる「日本人の魂の形」そのものなのです。