火の神カグツチを生んで火傷を負い、死に瀕していたイザナミ。その尿(ゆまり)から生まれたのが**稚産霊(ワクムスヒ)**です。「ワク」は「若い」、「ムスヒ」は「生成力」を意味し、みずみずしい生産力を象徴する神です。この神の頭の上には蚕(カイコ)と桑の木が生え、へその中には五穀(米・麦・豆など)が生じていました。これは、死(排泄物=肥料)から新たな生命(作物)が循環して生まれるという、古代の農業観を強烈に表現した神話です。
トヨウケヒメの親
食物神の継承
ワクムスヒには、**豊受比売神(トヨウケヒメ)**という娘がいます。彼女は後に伊勢神宮の外宮に祀られ、天照大神の食事を司る最高位の食物神となります。ワクムスヒがその身から生み出した穀物の恵みは、娘へと受け継がれ、日本の食文化の根幹を支えることになりました。
愛宕山の神
京都の愛宕神社の主祭神としても知られ、ここでは一般に「火伏せ(火事除け)」の神として信仰されています。これは、火の神によって母が死んだ際に生まれたことから、火をコントロールする力を持つと考えられたためでしょう。
もったいない精神
排泄物さえも肥料として利用し、命を循環させる姿は、現代でいう「サステナビリティ(持続可能性)」や「もったいない」の精神を体現しています。無駄なものなど何一つない、すべては次の命への糧となることを教えてくれる神様です。
まとめ
悲劇の中から生まれた、希望の種。稚産霊は、失われたものから新しい価値を生み出す、創造のエネルギーそのものです。