私たちが毎日食べているお米や野菜、肉や魚。それらは一人の神様の「死」から生まれたという、衝撃的かつ神秘的な神話をご存知でしょうか?**保食神(ウケモチ)**は、『日本書紀』に登場する食物の神であり、自らの命と引き換えに地上に豊かな実りをもたらした「死体化生(したいかせい)」の神です。彼女の物語は、生命が他の生命を食べることで成り立っているという、食の根源的な真理を私たちに問いかけます。
ツクヨミによる殺害事件
衝撃のおもてなし
ある時、天照大御神(アマテラス)の命令で、弟の月読尊(ツクヨミ)がウケモチのもとを訪ねました。ウケモチは喜び、客人をもてなそうとして、なんと口からご飯を、海に向かって口から魚を、山に向かって獣肉を出して調理し、机に並べました。彼女なりの最大限の歓迎だったのでしょう。
潔癖症の激怒と昼夜の分離
しかしこれを見たツクヨミは「汚らわしい!口から出したものを食べさせるのか!」と激怒し、剣を抜いてウケモチを斬り殺してしまいました。あまりに理不尽な理由ですが、この報告を聞いたアマテラスは「なんてひどいことをするの」とツクヨミを勘当し、二度と会わないと宣言しました。これが、太陽(昼)と月(夜)が別々の時間に空に現れるようになった「昼と夜の起源」だと言われています。
死体から生まれた宝
五穀の起源
ツクヨミが去った後、アマテラスが使いを送ってウケモチの死体を確認させると、不思議なことにその遺体から様々な食物が生まれていました。頭から牛馬が、額から粟(あわ)が、眉から蚕(かいこ)が、目から稗(ひえ)が、腹から稲が、陰部から麦や大豆が生じていたのです。アマテラスはこれらを歓喜して受け取り、「これは蒼生(民衆)が生きていくための糧になる」と言って、地上の田畑の種としました。(※古事記ではオオゲツヒメの神話として同様の話が語られます)
稲荷神との同一視と信仰
食の大神として
食物を司る神としての性格から、宇迦之御魂神(ウカノミタマ=お稲荷さん)や外宮の豊受大神と同一視されることが多いです。悲劇的な最期を遂げましたが、彼女は今も私たちの食卓のすべての食材の中に生き続けており、命の循環を象徴する重要な神様です。
まとめ
自らの身を捧げて、世界に「食」という恵みを与えた保食神。私たちが食事の前に「いただきます」と手を合わせる時、そこには彼女への感謝が含まれているのかもしれません。