名剣・魔剣と呼ばれる武器には華々しい活躍がつきものですが、このフルンティングは少し違います。英雄ベオウルフに貸し与えられ、「決して持ち主を裏切らない」「戦いで負けたことがない」と謳われながら、一番大事な場面で全く役に立たなかったという、なんとも気まずい逸話を持つ剣です。しかし、この剣の物語には、英雄の器の大きさを示す続きがあります。
血で鍛えられた業物
廷臣ウンフェルスからの貸与
この剣はベオウルフ自身の持ち物ではありません。当初、ベオウルフの武勇を疑って挑発してきた廷臣ウンフェルスが、グレンデル討伐の成功を見て改心し、沼の魔物(グレンデルの母)の討伐に向かうベオウルフに、仲直りの印として貸し与えたものです。刀身には毒の枝のような複雑な模様が浮き出ており、魔物の血で焼き入れされた、歴戦の勇士が代々愛用してきた家宝でした。
まさかの効果なし
グレンデルの母との戦い
不気味な沼の底で怪物(グレンデルの母)と対峙したベオウルフは、渾身の力でフルンティングを振るい、怪物の頭に叩きつけました。しかし、魔剣の刃は怪物の硬すぎる皮膚に弾かれ、傷一つつけられませんでした。名剣がついに「失敗」した瞬間です。
その後の処遇
絶体絶命のベオウルフは、フルンティングを投げ捨て、その場にあった「巨人の打ちし剣」を使って何とか勝利を収めました。興味深いのは、戦いの後です。ベオウルフはこの役立たずの剣をウンフェルスに返す際、「刃が通らなかった」とは言わず、「良い剣だった、戦いで役に立った」と嘘をついて感謝を述べたのです。剣の失敗を責めず、貸してくれた相手の面目を保つ。これこそが、ベオウルフが真の英雄たる所以を示すエピソードとして知られています。
まとめ
最強の武器でも相性が悪ければ通用しない。フルンティングは、道具への過信を戒めると同時に、他者の善意を受け入れ、失敗を許す人間の高潔さを伝えるための舞台装置だったのかもしれません。