古代ペルシャ最大の英雄叙事詩『シャー・ナーメ(王の書)』において、数世紀にわたりイランを守り続けた不朽の英雄ロスタム。ヘラクレスにも比肩する怪力と冒険の数々、そしてあまりにも有名な「息子殺し」の悲劇は、イランの国民的象徴として今も語り継がれています。虎の皮をまとい、巨馬ラクシュに跨る彼の、勇壮にして哀切な物語を紐解きます。
運命の子の誕生
常人離れした成長
ロスタムは、白髪の英雄ザールの息子として生まれました。あまりに体が大きかったため、帝王切開(伝説的な鳥シームルグの助言による)で生まれたと言われています。幼少期から象を一撃で殺すほどの怪力を発揮し、普通の馬では彼の重さに耐えられなかったため、特別な馬ラクシュを選び出しました。この人馬一体のコンビは、数々の戦場で無敵の強さを誇りました。
七つの難行(ハフト・ハーン)
囚われた王を救出するために挑んだ「七つの難行」は彼の英雄譚のハイライトです。砂漠の横断、ドラゴンの討伐、魔女の撃退、悪鬼(デーブ)の王との対決…。これらを次々と突破していく姿は、まさに最強の名にふさわしい活躍でした。
ソホラーブとの悲劇
知らずに戦う父と子
ロスタムの物語で最も涙を誘うのが、息子ソホラーブとの戦いです。敵国の勇士として現れた若者が、実は別れた妻との間に生まれた自分の息子だとは知らず、ロスタムは彼と一騎打ちを演じます。数日に及ぶ激闘の末、ロスタムはソホラーブの腹を短剣で裂き、致命傷を与えます。
腕輪の真実
死にゆく若者が「私の父ロスタムが復讐に来るだろう」と告げた時、ロスタムは驚愕します。証拠として若者の腕を見ると、かつて自分が妻に託した護符の腕輪がありました。自らの手で愛する息子を殺してしまったロスタムの慟哭は、天を揺るがしたと言います。このエピソードは、マシュー・アーノルドの詩などを通じて西洋にも広く知られています。
イランの守護神
600年の生涯
彼は人間離れした長寿を保ち、数代にわたる王たちに仕えました。王が愚かであっても、彼はイランという国と民を守るために剣を振るい続けました。その独立不羈の精神と圧倒的な力は、ペルシャの人々の誇りそのものです。
現代への影響
『アルスラーン戦記』などのファンタジー作品における「最強の老騎士」や「豪傑」のキャラクター造形には、ロスタムの影響が色濃く見られます。彼の物語は、英雄の強さと、それに伴う孤独や悲しみを深く描き出しています。
まとめ
ロスタムは、イランの大地に根付く強さと優しさの象徴です。異母兄弟の裏切りによって落とし穴に落ち、最期を迎えるその瞬間まで、彼は誇り高い戦士であり続けました。