ディートリッヒ・フォン・ベルン は、中世ドイツの英雄叙事詩における最大の英雄の一人です。「ベルンのディートリッヒ」を意味し、歴史上の東ゴート王テオドリック大王がモデルとされています。数々の冒険譚を持ち、巨人やドラゴンを討伐し、名剣を手に諸国を放浪しました。彼の物語は『ニーベルンゲンの歌』にも組み込まれ、そこでは不死身の英雄ジークフリート(シグルド)をも凌ぐ最強の騎士として描かれることもあります。
火を吐く最強の騎士
激怒の炎
ディートリッヒの最大の特徴は、激怒すると「口から火を吐く」という人間離れした体質です。これは彼が悪魔の血を引いている、あるいは精霊の守護を受けているという伝承に由来します。この炎の息によって、氷の巨人や魔法使いとも対等以上に渡り合いました。
名剣の収集家
彼は生涯を通じて多くの名剣を手に入れました。巨人エッケから奪った「エッケザックス」、小人から得た「ナーゲリング」、そしてヴィーテゲから借り受けた「ミームング」。これらの魔法の武器を振るい、配下のヒルデブラントと共に戦場を駆け抜けました。
ジークフリートとの関係
英雄対英雄
『ニーベルンゲンの歌』の後半部において、彼はフン族の王エッツェル(アッティラ)の客将として登場します。クリームヒルトの復讐劇に巻き込まれ、最終的にはハーゲンとグンター王を捕縛するという決定的な役割を果たしました。北欧の『ティドレクのサガ』では、若き日のジークフリートと力比べをして勝利したというエピソードもあり、ゲルマン伝説圏における「最強」の称号にふさわしい人物です。
歴史と伝承の狭間
東ゴート王テオドリックについて
ディートリッヒのモデルは、実在の東ゴート王テオドリック大王です。彼はイタリアを支配し、ラヴェンナに都を置きました。伝説の中で彼が「ベルンのディートリッヒ(ヴェローナのテオドリック)」と呼ばれるのは、テオドリックの活動拠点と重なるためです。
現代作品への影響
『銀河英雄伝説』など、架空の戦記物で「ディートリッヒ」という名が指揮官やエースパイロットに使われる際、しばしばこの伝説の英雄のイメージが重ねられます。「最強の騎士」の代名詞として、ドイツ文化圏では不動の人気を誇ります。
まとめ
ディートリッヒは、王としての威厳と、冒険者としての野性味を併せ持つ英雄です。国を追われ、長い放浪の末に王位を奪還するその生涯は、挫折と栄光に満ちた中世騎士道の理想形とも言えます。