「クランの猛犬」として恐れられたケルト神話の大英雄クー・フーリン。その短くも鮮烈な生涯は、まさに英雄の原型と言えるでしょう。光の神ルーを父に持ち、超人的な戦闘能力と悲劇的な運命を背負った彼は、アイルランドで最も愛される英雄の一人です。魔槍ゲイ・ボルグを操り、親友や息子さえも手にかけざるを得なかった彼の苦悩と強さの秘密に迫ります。
クー・フーリンの出自
幼名セタンタと猛犬殺し
彼の幼名はセタンタと言いました。少年時代、鍛冶屋クランの屋敷に招かれた際、遅れて到着したセタンタは、番犬として放たれていた巨大な猛犬に襲われます。しかし彼は素手(あるいはスリング)でこの猛犬を撲殺してしまいました。主人のクランが嘆くのを見て、セタンタは「この犬の代わりの犬が育つまで、私があなたの番犬になりましょう」と申し出ました。これにより、彼は「クランの犬(クー・フーリン)」と呼ばれるようになったのです。
影の国での修行
成長したクー・フーリンは、さらなる強さを求めて「影の国」へと旅立ちます。そこで女武芸者スカサハに弟子入りし、数々の武術とルーン魔術、そして必殺の魔槍ゲイ・ボルグを授かりました。この修行時代に、彼は生涯の親友となるフェルディアとも出会い、共に切磋琢磨します。しかし、この友情が後の悲劇的な決闘へと繋がる伏線となってしまうのです。
赤枝の騎士団での武勇
クーリーの牛争い
アルスターとコナハトの間で起きた「クーリーの牛争い」と呼ばれる戦争において、クー・フーリンは最大の活躍を見せます。アルスターの男たちが呪いによって戦えなくなる中、彼はたった一人で女王メイヴ率いる軍勢を食い止め続けました。連日の決闘、かつての親友フェルディアとの涙の死闘を経て、彼はアルスターを守り抜きます。この時、興奮状態になった彼の肉体は異形に変形し(リオーズ)、敵味方問わず恐怖させたと言われています。
縛められた最期
しかし、英雄の最期は唐突に訪れます。敵の策略によって自身のゲッシュ(誓約)である「犬の肉を食べないこと」を破らされ、半身が麻痺した彼は、無数の敵に囲まれます。死を悟ったクー・フーリンは、倒れて死ぬことを潔しとせず、自身の体を石柱に帯で縛り付け、立ったまま絶命しました。その覇気は凄まじく、死後しばらく誰も彼に近づけなかったと伝えられています。
ポピュラーカルチャーにおける姿
槍兵としてのクラス定着
『Fate/stay night』におけるランサーとしての登場は、日本での知名度を爆発的に高めました。「青い全身タイツ」と揶揄されることもありますが、その兄貴肌な性格と、ここ一番での勝負強さは原作神話のイメージを見事に現代風にアレンジしています。
魔槍ゲイ・ボルグの知名度
「心臓に命中してから槍が放たれる」という因果逆転の技としての描写は有名ですが、原典のゲイ・ボルグは、足の指で挟んで投げると無数の棘となって体内で炸裂するという、よりグロテスクで回避不可能な兵器として描かれています。
まとめ
クー・フーリンの生き様は、制約(ゲッシュ)と名誉に縛られながらも戦い抜く、儚くも美しい戦士の象徴です。その潔い最期は、数千年の時を超えてなほ、我々の胸を打ちます。