オパビニア(Opabinia)は、古生代カンブリア紀(約5億年前)の海に生息していた、アノマロカリスと並ぶバージェス動物群のアイドル的存在です。そのあまりにも奇妙な姿は、1912年の発見から長らく科学者を悩ませ続け、1970年代に学会で復元図が発表された際には、あまりの荒唐無稽さに会場が爆笑の渦に包まれたという伝説を持っています。しかし、その奇妙な姿こそが、カンブリア紀という生命進化の実験場が生み出した「最適解」の一つだったのです。
5つの複眼が捉える世界
オパビニアの最大の特徴は、頭部にキノコのように飛び出して配置された5つの目(複眼)です。前の2つ、後ろの2つ、そして中央の1つという配置により、彼らは真後ろを含む360度全方位を同時に監視することができました。カンブリア紀は「食うか食われるか」の生存競争が始まった時代であり、常に周囲を警戒する必要がありました。この高性能なレーダーシステムは、捕食者から身を守ると同時に、泥の中に隠れた獲物を見つけるためにも役立っていたと考えられます。
掃除機のような口吻
顔の先端からは、象の鼻や掃除機のノズルのような長い管(吻)が伸びており、その先端にはハサミ状のトゲが生えていました。オパビニアはこの柔軟なノズルを器用に動かし、海底の砂を探ったり、岩の隙間にいる獲物(小さな精虫など)を摘み上げたりして、頭の下にある本当の「口」へと運んでいました。口自体には顎がなく、後ろ向きに消化管が伸びていたため、ノズルで運ばれた獲物を効率よく飲み込む構造になっていました。
分類不能の奇妙な生物
長い間、オパビニアがどの動物グループに属するのかは大きな謎でした。節足動物のようでいて関節肢がなく、環形動物のようでいて殻がない。現在では、節足動物や有爪動物(カギムシ)の祖先に近いグループ「恐蟹類(きょうかいるい)」の親戚、あるいは節足動物のステムグループ(派生的な幹グループ)に位置づけられています。彼らの存在は、現生の動物門が確立する前の、進化の過渡期における多様性を示す生きた証拠なのです。
まとめ
オパビニアは、「事実は小説よりも奇なり」を地で行く古生物です。5つの目と長い鼻を持つその姿は、私たちの常識を超えた進化の可能性を教えてくれます。彼らは間違いなく、地球生命史上で最もユニークなデザインの一つです。