「夜叉のような顔」というと、怒りに満ちた恐ろしい形相を思い浮かべますが、本来の夜叉は森や水を守る穏やかな精霊でした。二面性を持つこの神の正体を探ります。
森の精霊から鬼へ
豊穣の精霊
古代インド(ヴェーダ時代以前)においては、ヤクシャは森や樹木に宿る精霊であり、自然の生命力や豊穣を司る神聖な存在として地元の人々に崇拝されていました。特に女性形のヤクシニーは、豊満な肉体を持つ美しい女性として描かれ、生殖と繁栄のシンボルとされていました。彼らは人間に恵みをもたらす「良いヤクシャ」であり、供物を受け取る代わりに村を守ってくれる存在でした。
恐ろしい人食い鬼
しかし時代が下るにつれ、あるいはアーリア人の宗教や仏教に取り入れられる過程で、彼らは人を襲って食べる恐ろしい怪物としての側面も持つようになりました。しばしば「羅刹(ラークシャサ)」と混同され、空を飛び、怪力を振るい、人間を害する凶暴な鬼として描かれます。現代日本で「夜叉」と言うと、般若のような恐ろしい鬼の顔をイメージするのは、この後者のイメージが強く伝わったためです。
仏教の守護神
八部衆と十二神将
仏教では、大日如来や釈迦の教えに触れて改心し、強力な仏法の守護者となりました。「天竜八部衆」の一員として、また薬師如来を守る「十二神将」のひとり(迷企羅大将など)としても知られています。特に毘沙門天(多聞天)に仕える眷属としても有名で、北方を守護し、人々に財宝をもたらす福の神としての役割も担っています。
犬夜叉のモデル
日本の漫画『犬夜叉』など、フィクション作品でも「強力な力を持つ鬼神」のモチーフとして頻繁に登場します。「夜叉のような」という表現は、鬼気迫る恐ろしさと、圧倒的な強さの代名詞となっています。
まとめ
自然の恵み(豊穣)と厳しさ(恐怖)。夜叉はその両面を持つ、自然界そのもののような神様なのです。仏像として拝まれる彼らの姿には、かつての精霊としての威厳が今も息づいています。