バリ島の寺院で演じられる舞踊劇。ガムランの音が鳴り響く中、おどろおどろしい仮面をつけた魔女が登場すると、観客は息を飲みます。彼女の名はランダ。疫病と黒魔術を操り、聖獣バロンと永遠の戦いを繰り広げる、バリ・ヒンドゥー教における「悪」の絶対的象徴です。
悪の具現者
恐怖の姿
ランダの姿は、見る者に生理的な嫌悪感を催させるようにデザインされています。ボサボサの白髪、飛び出した目、口からは血のように赤い長い舌が垂れ下がり、手には鉤爪、そして胸には地面に届くほど長く垂れ下がった萎びた乳房があります。その名は「未亡人」を意味し、かつて夫に先立たれ社会から疎外された女性たちの恨みが凝縮された姿とも言われています。
黒魔術の女王
彼女は「レイヤック」と呼ばれる弟子や悪霊たちを率い、村に疫病を流行らせたり、幼児を食い殺したりします。彼女が白い布を振ると、そこから死の呪いが拡散されると恐れられています。
終わらない聖戦
チャロナラン劇
ランダの最大の宿敵は、善の力を象徴する聖獣バロンです。二人の戦いは「チャロナラン」と呼ばれる舞踊劇で再現されます。劇中、ランダの魔力によって自害しようとクリス(短剣)を自分の胸に突き立てるトランス状態の兵士たちを、バロンが魔力で守るシーンは圧巻です。
善悪の均衡
重要な点は、この戦いには決着がつかないということです。バロン(善)がランダ(悪)を完全に滅ぼすことはありません。バリの人々は、善と悪は互いに存在し合うことで世界のバランスが保たれると考えており、ランダもまた、恐怖を通じて人々に信仰心を思い出させる必要な存在として祀られているのです。
現代でのランダ
魔除けとしての悪
逆説的ですが、ランダの恐ろしい仮面は、より弱い悪霊を追い払う魔除けとして飾られることもあります。「毒を以て毒を制す」のように、彼女の強力な力は畏怖と同時に崇拝の対象でもあります。
まとめ
ランダは単なる悪役ではなく、人間の心の闇や社会の負の側面を背負い、世界の完全性の一部を担う、畏ろしくも偉大な・マザー・オブ・ダークネスなのです。