「バーヴァン・シー」の名は、ゲール語で「妖精の女」を意味しますが、その響きの美しさに騙されてはいけません。彼女たちは優雅な妖精とは程遠い、人間の生き血を啜る恐ろしい吸血鬼です。スコットランドのハイランド地方において、彼女たちは夜な夜な獲物を求めて荒野を彷徨っています。
美しい死神の姿
緑のドレスの女
彼女たちは常に長い緑色のドレスを纏った、絶世の美女の姿で現れます。その美しさに男たちは魅了されますが、注意深く見れば違和感に気づくはずです。彼女たちの足元はドレスの裾で隠されています。なぜなら、その足は人間の足ではなく、毛深い鹿の蹄だからです。
踊りへの誘い
彼女たちは狩人たちが休息している山小屋や焚き火のそばに突然現れ、「一緒に踊りましょう」と誘います。疑いを知らない男たちが手を取って踊り始めると、彼女たちの魔力によって朝まで踊り続けることになります。そして疲労困憊して眠りに落ちた時、宴は殺戮の場へと変わるのです。
通常の吸血鬼との違い
牙ではなく爪
バーヴァン・シーはドラキュラのように牙を持っていません。代わりに、指先に鋭い鉤爪を持っています。また、ドレスの下に小さな角を隠し持っているとも言われます。彼女たちは眠っている男の胸を爪で切り裂き、そこから溢れ出る血を貪ります。
鉄が弱点
死者が蘇った存在であるアンデッド(吸血鬼)とは異なり、彼女たちはあくまで「妖精」の一種です。そのため、ヨーロッパの妖精伝承に共通する弱点である「冷たい鉄」を極端に嫌います。蹄の音が聞こえたら、鉄のナイフや馬蹄を身につけていれば、彼女たちは近づくことができません。
現代での知名度
FGOでの暗躍
日本国内では、ゲーム『Fate/Grand Order』に登場する「妖精騎士トリスタン」の正体として一躍有名になりました。可愛らしくも残酷で、愛に飢えているというキャラクター造形は、本来の伝承が持つ「美と死」の二面性を色濃く反映したものと言えるでしょう。
まとめ
もしスコットランドの森で、緑のドレスの美女にダンスを誘われても、決して手を取ってはいけません。それは終わりのない死の舞踏への招待状であり、あなたが迎える最後の夜になるかもしれないのです。