荒ぶる英雄スサノオが、初めて心から守りたいと願った女性。そして、命がけで怪物と戦う動機となった愛しき人。日本神話きっての純愛ストーリーのヒロインこそが、**櫛名田比売(クシナダヒメ)**です。怪物ヤマタノオロチの生贄になるという絶望的な運命から救い出され、日本最古の和歌にも詠まれた彼女は、優しさと芯の強さを併せ持つ「理想の日本女性(大和撫子)」の象徴として、今も多くの人々に愛され続けています。
オロチ退治と「櫛」への変身
涙の別れから一転
高天原を追放されたスサノオが出雲の国に降り立つと、老夫婦が泣いていました。話を聞けば、8人いた娘のうち7人までがヤマタノオロチに食べられ、最後に残ったクシナダヒメも今夜食べられてしまうというのです。スサノオは彼女の美しさに心を奪われ、「ヤマタノオロチを退治したら、娘を嫁に欲しい」と申し出ます。
運命を共にする変身
この時、スサノオは彼女をただ安全な場所に隠すのではなく、神聖な力が宿るとされる「湯津爪櫛(ゆつつまぐし)」という小さな櫛に変え、自分の髪に挿して戦いに挑みました。これは「同体となって共に戦う」という究極の愛のエピソードであり、彼女の霊力がスサノオの守りとなったとも言えます。彼女は守られるだけの弱い存在ではなく、その存在自体が英雄に力を与える女神だったのです。
縁結びと夫婦円満の象徴
八雲立つ出雲の地
見事にオロチを退治した後、二人は出雲の須賀という場所に宮殿を建てて結婚しました。この時スサノオが詠んだ「八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を(雲が湧き出る出雲の地に、妻を隠すために何重もの垣根を作る、ああ素晴らしい垣根よ)」という歌は、日本初の和歌(三十一文字)とされています。
稲田の女神として
名前の「クシ」は「霊妙な」、「ナダ」は「稲田」を意味し、本来は稲作の豊穣を司る女神です。また、劇的な出会いから結ばれたため、島根県の八重垣神社や須我神社、京都の八坂神社などで、縁結び・夫婦和合・安産の神として深く信仰されています。
まとめ
恐怖(オロチ)に打ち勝つ愛の力を証明したクシナダヒメ。彼女の物語は、どんな困難な状況でも、信じ合う心があれば希望の光(良縁)が差し込むことを教えてくれます。