縄文時代から続く土器や埴輪(はにわ)。それらを作るために不可欠な「粘土(埴土)」を神格化したのが、**波爾夜須毘売神(ハニヤスヒメ)**です。夫(あるいは兄)のハニヤスヒコと共に、大地そのものを司る土の神様です。彼女の生まれた経緯は現代の感覚からすると非常にショッキング(排泄物から誕生)ですが、そこには「汚れたものを肥料として土に還し、そこから新たな命を育む」という、古代日本人の素晴らしいリサイクル思想と循環型社会の自然観が込められています。
大便から生まれた神
究極の堆肥
国生み・神産みの最後、イザナミが火の神カグツチを産んで火傷を負い、死に瀕した際。彼女が苦しみの中で排泄した大便(糞)から生まれたのが、ハニヤスヒメとハニヤスヒコの二柱の神です。同時に、尿からは水の神ミズハナメとワクムスビが生まれました。
これは一見汚い話に思えますが、農耕社会においては非常に重要な意味を持ちます。排泄物は「肥料(下肥)」となって土を肥やし、その質の良い土と水が混ざり合って、豊かな作物が育ち、また器となる土器が作られる。死に行くイザナミが最後に残した、生命を生み出し続けるための「聖なる土」の誕生神話なのです。
陶芸とトイレの神様
ものづくりの守護者
名前の「ハニ(波爾)」は、赤土や粘土を意味します。そのため、土器・陶磁器・瓦など、「土」を扱う職人たちからは、文字通り「仕事の材料の神様」として現在でも厚く信仰されています。
トイレの神様としての顔
また、排泄物から生まれた経緯から、古くは厠(かわや=トイレ)の神様としても祀られました。昔のトイレは汲み取り式で、それが発酵して肥料になり、土に還る場所でした。彼女は土と排泄の循環を見守り、五穀豊穣と人々の健康(排泄は健康のバロメーターです)を守っているのです。「トイレの神様」というと弁財天などが有名ですが、起源を辿れば彼女こそが元祖と言えるでしょう。
まとめ
土いじりの楽しさから、毎日のトイレまで。ハニヤスヒメは、最も身近で、かつ生命の循環に欠かせない「土」を通して、私たちの日常を足元から支えてくれています。