英雄譚の陰には、常に守られるべき弱者がいる。スサノオによるヤマタノオロチ退治の物語において、嘆き悲しむ老夫婦として登場するのが足名椎命(アシナヅチ)である。
泣き暮らす老神
8人の娘を失う
アシナヅチは、妻のテナヅチと共に8人の娘をもうけたが、毎年ヤマタノオロチという怪物に娘を一人ずつ食われ、ついに最後のクシナダヒメも奪われそうになっていた。 そこへ高天原を追放されたスサノオが現れ、娘を助ける代わりに妻として差し出すことを条件にオロチ退治を請け負う。
名前の由来
足を撫でる慈愛
「ナヅ」は「撫でる(愛でる)」を意味し、**「娘の足を撫でていつくしむ父親」**という意味が込められているとされる。 また、山の神(大山津見神)の子であることから、「山の麓(足)の精霊」と解釈されることもある。
酒造りの協力
オロチを酔わせるための「八塩折の酒(やしおりのさけ)」を醸造したのは、スサノオの指示を受けたアシナヅチたちである。 無力な老神が、知恵と協力によって怪物に一矢報いた瞬間であった。
【考察】出雲の長老
宮司の祖
オロチ退治の後、スサノオから**「稲田宮主須賀之八耳神(いなだのみやぬしすがのやつみみのかみ)」**という長い名前を授かり、宮殿の長(宮司)に任じられた。 これは、彼が出雲地方の祭祀を司る一族の長であったことを示唆している。
まとめ
足名椎命は、神話において「守られるべき者」の弱さと、子を想う親の強さの両方を体現した神である。