トロイア戦争に参加したギリシャ勢の中で、アキレウスに次ぐ武勇を誇ったとされる「大アイアス(テラモンの子アイアス)」。彼は巨大な身体と、青銅と牛革を何層にも重ねた「7枚重ねの盾」をトレードマークとしていました。派手な神の加護や魔法には頼らず、己の肉体と盾だけで戦線を支え続けた「守護の英雄」です。しかし、その実直さゆえに、知略と弁説に長けたオデュッセウスとの争いに敗れ、悲劇的な最期を迎えることになります。
鉄壁の守護者
ヘクトルとの一騎打ち
トロイア最強の英雄ヘクトルと一騎打ちを行い、日が暮れるまで互角に戦い抜きました。戦いは引き分けに終わり、互いに武勇を称え合って、アイアスは紫の帯を、ヘクトルは剣を贈り合いました。
撤退戦の殿
ギリシャ軍が陣地まで押し込まれた際や、アキレウスが戦死した際の遺体回収戦など、常に最前線で敵の猛攻を受け止め、味方を逃がす「殿(しんがり)」としての役割を果たしました。彼の盾は、トロイア軍にとって越えられない壁そのものでした。
サラミスの王
アイアスはサラミス島の王の一族であり、後にサラミスの海戦(ペルシア戦争)の際に、ギリシャ軍はアイアスの霊に勝利を祈願したと伝えられています。悲劇的な最期を遂げながらも、彼はアテナイやサラミスの人々にとって、国家を守る守護神として長く崇拝され続けました。
狂気と自害
アキレウスの鎧
アキレウスの死後、その神作の鎧を誰が受け継ぐかを巡って、アイアスとオデュッセウスが争いました。武勇ならアイアスでしたが、演説による判定の結果、知略のオデュッセウスが選ばれました。この屈辱に耐えられなかったアイアスは発狂し、羊の群れをギリシャ軍の指揮官たちだと思い込んで虐殺してしまいます。
名誉ある死
正気に戻った彼は、己の行いを恥じ、「これ以上生き恥を晒せない」と決意。かつてヘクトルから贈られた剣を地面に突き立て、その上に身を投じて自害しました。彼の死んだ場所にはヒヤシンスの花が咲き、その花弁には彼の嘆き「AI(ああ)」の文字が刻まれたと伝えられています。
まとめ
武力一辺倒の英雄が、言葉と知恵の時代に取り残されていく悲哀。アイアスの物語は、時代の変化と不器用な生き様の尊さを今に伝えています。