黄金の麦の穂を手に持ち、人間に農業を教え、大地の恵みをもたらすありがたいお母さん。それが豊穣の女神デメテルです。しかし、彼女を単なる「優しい女神」だと思うのは大きな間違いです。彼女は愛する娘のためなら、世界中を干上がらせ、人類を滅亡寸前まで追い込むことも辞さない、ある意味で最も敵に回してはいけない「執念の母」でもあるのです。私たちの世界になぜ「冬」があるのか、その悲しい理由と共に解説します。
デメテルとはどんな女神か?
母なる大地
ローマ神話では「ケレス(Ceres)」と呼ばれ、これが「シリアル(穀物)」の語源となっています。ゼウスの姉であり、穀物の収穫や植物の成長を司ります。彼女の機嫌が良いと豊作に、悪いと凶作になるため、古代の人々にとって彼女のご機嫌取りは死活問題でした。
娘ペルセポネへの愛
ゼウスとの間に生まれた一人娘ペルセポネを溺愛しており、片時も離そうとしませんでした。この過保護な愛が、神々を巻き込んだ大事件の引き金となります。
冬が生まれた日
職場放棄(ボイコット)
ある日、ペルセポネが冥界の王ハデスによって地下世界へ誘拐されてしまいました。嘆き悲しんだデメテルは、神としての職務を完全に放棄し、老婆の姿になって地上を放浪しました。豊穣神が仕事をしないため、大地は枯れ果て、種は芽吹かず、家畜は死に絶え、人間たちは飢えに苦しみました。世界は滅亡の危機に瀕したのです。
四季のサイクルの始まり
困ったゼウスが仲裁に入り、ハデスに娘を返すよう命じました。しかし、ペルセポネは冥界でザクロの実を食べてしまっていたため、「食べた数だけ冥界にいなければならない」という掟により、1年のうち3分の1(冬)は冥界で夫ハデスと、残りの期間は母デメテルと暮らすことになりました。デメテルが娘といられて喜ぶ期間は花が咲き誇る「春・夏」となり、娘が冥界へ去って悲しむ期間は草木が枯れる「冬」となったのです。
まとめ
デメテルは、大地のような包容力と、それを一瞬で凍てつかせる厳しさ、その両方が「自然」の本質であることを教えてくれます。母の愛は暖かく、時に恐ろしいものなのです。