「私は存在するようになる者である」。混沌の海から自力で生まれ、自らの体液から他の神々を生み出した、エジプト神話の最初の神。夕暮れの太陽を象徴する老賢者。
アトゥムとはどのような神か?
ヘリオポリス創世神話における最高神・創造神です。原初の海ヌンから隆起した「原初の丘(ベンベン)」の上に、自らの力で出現しました。彼にはパートナーがおらず、自慰(あるいはくしゃみ)によってシュウ(風)とテフヌト(湿気)を生み出し、そこからエジプトの九柱神が始まりました。太陽神ラーと習合して「ラー・アトゥム」となり、特に「沈みゆく夕日(老いた太陽)」を象徴します。
神話でのエピソード
世界の終わり
エジプト神話において、世界の終わりにはアトゥムが大洪水を起こし、世界を再び原初の海に戻すとされています。その時、彼とオシリスだけが蛇の姿になって生き残ると予言されています。
全てを含む者
彼の名は「完了した者」「全てである者」を意味します。彼は宇宙の始まりであり、終わりでもあります。
信仰と後世への影響
ファラオとの一体化
ピラミッド・テキストでは、死んだ王はアトゥムと一体化し、星になると記されています。
ポップカルチャー
『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンド名としても有名ですが、本来は極めて哲学的で抽象度の高い神です。
【考察】その本質と象徴
孤独な創造
他者に頼らず、自己完結的に世界を生み出す姿は、絶対的な創造主の原型です。
蛇への回帰
エジプト神話では、世界は最終的に混沌の海ヌンへと沈みますが、アトゥムだけは蛇の姿となって生き残ると言われます。蛇は脱皮して再生する生物であり、永遠の循環と、形を持たない原初のエネルギー状態への回帰を象徴しています。この終末論は、破壊ではなく再生のための必然的なプロセスと考えられており、アトゥムの存在は死と再生の無限のサイクルの保証でもあります。
まとめ
彼は夕陽の中に立ち、自らが作った世界の終わりを見つめています。始まりへの回帰を待ちながら。