ティラコスミルス(Thylacosmilus)は、南米大陸に生息していた肉食の有袋類です。カンガルーやコアラの遠い親戚ですが、その姿は北半球のスミロドン(サーベルタイガー)に瓜二つです。これは全く異なる系統の生物が、似た環境で似た姿に進化する「収斂進化」の最も有名な例の一つです。彼らは「袋を持ったサーベルタイガー」でした。
牙を守る「鞘」
ティラコスミルスの最大の特徴は、スミロドン以上に長い上顎の犬歯です。興味深いことに、彼らの下顎にはこの長い牙を収めるための「鞘(さや)」のような骨の垂れ下がり(下顎の縁)がありました。これにより、口を閉じているときも牙が保護されていました。また、この牙は一生伸び続ける(常生歯)という、ネコ科にはない齧歯類のような特徴を持っていました。
首狩りのスペシャリスト
顎を閉じる筋肉は弱かったものの、首の筋肉は異常に発達していました。このことから、彼らは獲物に噛み付くのではなく、大きく口を開けて牙を突き立て、首の力で振り下ろして血管や気管を断ち切る戦法をとっていたと考えられます。動きの遅い大型の草食有袋類などを主食にしていたのでしょう。
真のサーベルタイガーとの交代
彼らは南米大陸で長く繁栄しましたが、パナマ地峡の形成後、北からやってきた「本物の」サーベルタイガー(スミロドン)との競争に敗れ、絶滅したと言われています。スミロドンの方がより俊敏で、脳も大きく、狩りの効率が高かったのかもしれません。
まとめ
ティラコスミルスは、南米という閉ざされた実験室が生み出した奇跡の造形です。その鞘付きの長大な牙は、進化の不思議と「似て非なるもの」の面白さを私たちに教えてくれます。