デスモスチルス(Desmostylus)は、中新世(約1500万年前)の北太平洋沿岸、特に日本と北米西海岸に生息していた、非常に奇妙な水生哺乳類です。1902年に岐阜県で最初の頭骨化石が見つかり、日本から世界に向けて報告された数少ない古生物の一つです。その名の由来となった「束柱(そくちゅう)」のような独特の歯や、定まらない体の復元図など、発見から100年以上経っても多くの謎に包まれたミステリアスな生物です。
海苔巻きを束ねたような歯
学名の「Desmostylus(束ねられた柱)」が示す通り、彼らの臼歯は円柱状の象牙質をエナメル質が取り囲んだ、まるで「海苔巻き」を数本束ねたような極めて特殊な形状をしていました。この構造は哺乳類全体を見ても唯一無二のもので、彼らだけのために「束柱目(そくちゅうもく)」という独立したグループが作られたほどです。この頑丈な歯を使って、海岸の岩に生えた硬い海藻を削ぎ取ったり、貝類を殻ごと噛み砕いたりして食べていたと考えられています。
カバか、ワニか、アシカか?
デスモスチルスの全身骨格が見つかってからも、その姿勢の復元については長い論争が続いてきました。骨格が非常に頑丈で手足が太く、一見カバのように見えますが、関節の向きが特殊で、陸上ではうまく歩けなかった可能性があります。かつてはワニのように手足を横に張り出した「爬虫類スタイル」で復元されたこともありましたが、現在はカバのように歩くか、あるいはアシカのように這って移動したという説が有力です。最新の研究では、水中を泳ぐことに特化した独特のスタイルを持っていたとされ、水陸を行き来する生活を送っていたようです。
太平洋からの消失
デスモスチルス類は、環太平洋地域の冷たい海で一時期繁栄しましたが、中新世の終わりと共に姿を消しました。彼らはどの子孫も残さずに絶滅し、進化の系統樹における「行き止まり」の枝となりました。彼らの絶滅原因は気候変動や海退による生息地の喪失と考えられていますが、彼らのようなユニークな形態を持つ生物が再び現れることはありませんでした。
まとめ
デスモスチルスは、日本の古生物学の象徴であり、進化の実験室が生み出した最もユニークな作品の一つです。その奇妙な歯と謎めいた生態は、太古の日本列島が全く異なる自然環境の中にあったことを雄弁に語っています。