翼を広げれば雲のように天を覆い、ひとたび羽ばたけば台風が起きる。東洋のロック鳥とも言うべき規格外の巨鳥、それが鵬です。しかし、彼が他の怪鳥と異なるのは、その存在が物理的な脅威としてだけでなく、人間には到達できない「絶対的な自由」や「スケールの大きさ」の哲学的象徴として語られる点にあります。
魚からの変身
北冥の鯤
『荘子』の逸話はあまりにも有名です。北の最果てにある暗い海(北冥)に、「鯤(コン)」という魚が住んでいました。その大きさは数千里にも及び、誰もその全貌を知りません。この巨大な魚がある時、突如として鳥へと変身し、名前も「鵬(ホウ)」へと変わるのです。
逍遥遊の境地
鳥となった鵬は、海面を3千里にもわたって打ち叩いてその反動で舞い上がり、つむじ風に乗って上空9万里(約4万キロ、成層圏を越える高さ)まで上昇します。そして背中に広大な青空を背負い、半年かけて南の海(南冥)へと渡っていきます。蝉や鳩などの小さな生き物は「我々は木から木へ飛ぶのがやっとのになぜそんな高くまで飛ぶのか」と笑いますが、鵬の壮大さは彼らの理解の範疇を超えています。
英雄のシンボルとして
偉大なる志
鵬は、凡人には理解できない大きな志や才能を持つ英雄の象徴として好んで使われます。日本では名横綱「大鵬」の四股名として知られ、中国では「鵬程万里(ほうていばんり)」という言葉で、前途が遠大で有望であることを表現します。
ガルーダとの関係
インド神話のガルーダ(金翅鳥)と混同・同一視されることも多く、仏教に取り入れられてからは、龍を食べる護法善神としての側面も持つようになりました。『西遊記』では、獅子、象と共に三大魔王の一角「金翅大鵬彫」として登場し、孫悟空さえ苦戦させました。
まとめ
鵬は、我々の想像力を遥かに超えるスケールの大きさで、常識に縛られた小さな視点を笑い飛ばし、本当の自由とは何かを問いかけてくる哲学的な怪物です。