一反木綿(いったんもめん)は、鹿児島県の大隅半島に伝わる、長く白い布の姿をした妖怪です。 現代では『ゲゲゲの鬼太郎』の頼れる仲間として、博多弁(オリジナルの伝承地とは異なるがキャラクターとして定着)で話すひょうきんなイメージが強いですが、本来の伝承では命に関わる恐ろしい一面を持っています。
一反木綿の恐ろしい伝承
夜道の襲撃者
伝承によると、一反木綿は夕暮れ時になるとヒラヒラと空を飛び回ります。そして、通りかかった人を見つけると、音もなく襲いかかり、首や顔にきつく巻きついて窒息死させるといわれています。
刀で切ると血が出る?
ある武士が一反木綿に襲われた際、とっさに刀で切りつけたところ、布であるはずの体から鮮血が噴き出し、そのまま逃げ去ったという逸話が残されています。単なる布切れではなく、肉体を持った生々しい怪物であることを示唆しています。
妖怪としての正体
付喪神の一種か
葬儀に使われる木綿の布や、織りかけで放置された布が妖怪化したものと考えられます。「一反」とは着物一着分を仕立てるのに必要な布の長さ(約10メートル)を指します。生活に密着した道具が、夜になると人智を超えた動きをするという不気味さが根底にあります。
水木しげる作品による国民的人気
鬼太郎の空の乗り物
一反木綿を一躍有名にしたのは、間違いなく水木しげるの漫画『ゲゲゲの鬼太郎』です。この作品で彼は、鬼太郎や仲間たちを背中に乗せて空を飛ぶ、空輸担当兼戦闘要員として描かれました。
九州弁の愛されキャラ
鬼太郎のアニメシリーズでは、九州弁で話す気さくな性格や、薄い体を活かした回避能力、そして女性妖怪に弱いというコミカルな設定が追加され、本来の「絞め殺す」という恐怖のイメージは見事に払拭されました。今や日本で最も愛されている妖怪の一人です。
【考察】なぜ「布」が怖いのか
視界を奪われる恐怖
柔らかい布に顔を覆われ、視界と呼吸を奪われるという状況は、刃物で襲われるのとはまた違った、生理的なパニックを引き起こす閉塞的な恐怖です。一反木綿の伝承は、夜の闇や、風に舞う白い物体に対する人間の根源的な不安が形になったものかもしれません。
まとめ
殺人布という恐怖のルーツを持ちながら、現代では空を駆ける頼もしい相棒へと進化した一反木綿。その変化の歴史こそが、妖怪文化の柔軟さと面白さを物語っています。