「乾闥婆」という漢字、読めますか?これは「ガンダルヴァ」の音訳で、香りを常食とする不思議な神様です。蜃気楼のことを「乾闥婆城」と呼ぶのも彼らが由来。実体のない霧や香りのように捉えどころのない、幻想的な神を紹介します。
香りを食べる神
食香(じきこう)
彼らは非常に清浄な存在であり、酒や肉といった物質的な食事を一切口にしません。代わりに、彼らはただ「香り(お香の煙や花の芳香など)」だけを栄養源として生きています。そのため、仏教では死者の霊魂が次の生を受けるまでの「中陰(ちゅういん)」の状態(匂いだけを感じる存在)とも関係づけられることがあります。葬儀でお香を焚くのは、死者(乾闥婆の状態にある霊)への食事という意味合いも含まれているのです。
ソーマの守護者
元来のインド最古の聖典『リグ・ヴェーダ』などの神話では、神々の不死の飲み物「ソーマ」の守り手として登場し、優れた戦士としての側面も持っていました。彼らは空を飛び、神々の宝を守る勇敢な衛兵でもあったのです。
音楽家としての顔
インドラの楽師
天界においては、緊那羅(キンナラ)と共に帝釈天(インドラ)に仕え、神々の宴会で音楽を奏でる重要な役割を持っています。一般的に、緊那羅が歌(声楽)を担当するのに対し、乾闥婆はソーマを守る戦士としての気質も残しつつ、主にリュートや琵琶などの楽器演奏(器楽)を担当するとされています。その音楽技術は神業であり、聴く者すべてを恍惚とさせます。
薬師としての側面
名前の由来である「ガンダ」は香りを意味しますが、これは香りのよい薬草にも通じるため、乾闥婆は神々の薬(ソーマ)を管理し、病を癒やす力を持つ「薬師」としての側面も信仰されています。また、子供の守護神としての性格も持ち合わせており、病魔から守るために祈られることもあります。
蜃気楼との関係
乾闥婆城(けんだつばじょう)
海上の空気の層によって風景が浮き上がって見える「蜃気楼」のことを、古代インドでは「ガンダルヴァの都市(乾闥婆城)」と呼びました。そこから転じて、仏教用語としては、幻のように美しく見えるが実体のないもの、あるいは儚いものを指す比喩としても使われるようになりました。彼らの存在自体が、変幻自在な煙や香りのイメージと重なるため、このような幻想的な呼び名が定着したのでしょう。
まとめ
音楽、香り、そして蜃気楼。乾闥婆は、目に見えないけれど心を動かす「形なき美」を司る神様なのです。