「うつむく者」という意味の名を持つ奇妙な怪物、カトブレパス。古代ローマの『博物誌』に記載されたこの生物は、一見すると不格好な牛のようですが、一度その顔を上げて目が合えば、人間は即死すると言われています。バジリスクと並ぶ最強の「邪眼」の持ち主でありながら、自らの重すぎる頭に悩まされているという、アンバランスな脅威の正体とは。
地面を見つめる死神
プリニウスの記述
大プリニウスの『博物誌』によれば、カトブレパスはエチオピア(ナイル川源流)に生息しており、大きさは中型ですが、とてつもなく重い頭を持っています。そのため、首の筋肉では支えきれず、常に地面に向かってうなだれています。
幸運だった人類
プリニウスはこう続けています。「もしこの怪物が頭を上げてあたりを見回すことができたなら、人類は滅びていただろう」。彼の眼には致死的な魔力があり、視線があった者は即座に死ぬからです。彼がうつむいているのは、神が人間に与えた慈悲なのかもしれません。
毒の息と石化能力
変化する能力設定
時代が進むにつれ、カトブレパスの能力は「即死」から「石化」へと変化したり、あるいは「毒の息を吐く」という設定が追加されたりしました。毒草ばかり食べているため、彼の吐く息は周囲の空気を汚染し、触れたものを溶かすとも言われます。
モデルはヌー?
現代の動物学では、この怪物のモデルはアフリカに住むウシ科の動物**「ヌー(グヌー)」**ではないかと言われています。ヌーの大きな頭と、草を食べるために常に下を向いている姿、そして群れで移動する際の土煙などが、旅人の恐怖心と混ざり合って怪物化したのでしょう。
ゲームでのカトブレパス
FFシリーズの強敵
『ファイナルファンタジー』シリーズでは、最強クラスの青魔法や召喚獣としておなじみです。特に『FF5』では、倒すと強力な「カトブレパス(石化攻撃)」を覚える召喚アイテムをドロップします。片目が隠れた巨大な一つ目の牛のような姿で描かれることが多いです。
ウィザードリィ
古典RPG『ウィザードリィ』でも毒や石化攻撃を繰り出す厄介な敵として登場。冒険者たちにとって、「出会いたくないが、経験値は欲しい」というジレンマの対象です。
【考察】視線への恐怖
邪眼(イーヴィルアイ)信仰
バジリスクやメドゥーサと同様、カトブレパスも「見るだけで人を害する」邪眼信仰の系譜にあります。古代の人々は、悪意ある視線自体に物理的な呪いの力があると信じていました。カトブレパスの場合、「普段は見えない目」がふとした瞬間に見える恐怖が、その怪異性を高めています。
まとめ
重すぎる頭を持て余し、足元ばかりを見つめるカトブレパス。その孤独な視界の先に何が映っているのか、それを知る者は死者だけなのかもしれません。