吸血鬼の伝説は世界中にありますが、古代のマヤ文明においても「コウモリ」は夜と死の強力な象徴でした。地下深くに広がる冥界シバルバーの漆黒の闇に潜み、鋭い爪で侵入者の首を狩る処刑人、カマソッソ。その恐怖は数千年の時を超えて語り継がれています。
死のコウモリの館
ポポル・ヴフの試練
マヤの聖典『ポポル・ヴフ』において、英雄双子フンアフプーとイシュバランケーは、冥界シバルバーの王たちから数々の危険な試練を課せられます。その中の一つが「コウモリの館」での一夜でした。そこは無数のカマソッソたちが飛び交い、カミソリのように鋭い鼻や爪で、侵入者のあらゆるものを切り裂こうとする死の部屋でした。館の中は完全に闇に包まれており、不気味な羽音だけが響き渡る恐怖の空間でした。
英雄の死と再生
双子は自分たちの吹き矢の中に小さくなって隠れ、朝が来るのをじっと待ちました。しかし、夜明けが近づいた頃、フンアフプーが「もう夜は明けたかな?」と様子を見るために吹き矢から首を出したその瞬間、天井から待ち構えていたカマソッソが急降下し、一瞬にして彼の首を切り落としてしまいました。この首は後に冥界の球技場のボールとして使われることになりますが、弟イシュバランケーの機転と魔法により、亀の甲羅を代わりの頭として再生することに成功します。この衝撃的なシーンは、マヤ神話の中でも最もドラマチックな場面の一つです。
実在のモデル?
吸血コウモリの恐怖
中南米には実際に哺乳類の血を吸うナミチスイコウモリが生息しており、家畜や人間を襲うことがあります。彼らは狂犬病などの病気を媒介することからも、古くから恐れられてきました。また、更新世の時代には「デスモドゥス・ドラキュラエ」という巨大な吸血コウモリの絶滅種も同じ地域に存在していたことが化石から判明しており、これらの生物への原初的な恐怖の記憶が、カマソッソという「死に神」の伝説を生み出す大きな要因になったと考えられています。
現代のモンスターとして
現代のポップカルチャーにおいても、カマソッソのイメージは強烈です。映画『ゴジラ』シリーズ(モンスターバース)の前日譚コミックでは、「タイタン・カマソッツ」として巨大怪獣化して登場し、コングと激闘を繰り広げました。また、アメコミ『ヘルボーイ』では冥界の重要なキャラクターとして描かれるなど、南米を代表するダークヒーロー的な怪物として、世界中で人気を博しています。
まとめ
カマソッソは、私たちが本能的に抱く「暗闇」や「見えない捕食者」への恐怖を形にした存在です。夜のジャングルで感じる冷たい視線の正体は、今も彼なのかもしれません。