霧深いイギリスの田舎道、夜道でふと背後に気配を感じたら、絶対に振り返ってはいけません。そこには、燃えるような赤い目をした巨大な黒犬、ブラック・シャックが佇んでいるかもしれないからです。彼と目が合うことは、すなわち「死」を意味します。
イースト・アングリアの悪魔
嵐と共に来るもの
ブラック・シャック(Black Shuck)の名は、「悪魔」や「毛むくじゃら」を意味する古英語に由来します。特にイースト・アングリア地方で恐れられており、しばしば嵐や雷鳴と共に現れます。子牛ほどもある巨体に、ボサボサの黒い毛、そして暗闇でもランタンのように赤く(あるいは緑に)光る大きな目が特徴です。
教会襲撃事件
最も有名な目撃記録は、1577年にブライスバーグ教会とバンゲイ教会で発生した事件です。激しい雷雨の中、礼拝中の教会に突如として黒い巨犬が乱入し、信徒たちの喉を次々と噛み千切って殺害しました。黒犬が去った後の教会の扉には、焼け焦げたような爪痕が残され、それは「悪魔の爪痕」として今も語り継がれています。
死の予兆としての黒犬
グリムのモデル
イギリス全土に類似の「ブラックドッグ(黒妖犬)」伝承がありますが、共通しているのは「死の予兆」であるという点です。ブラック・シャックを見ることは、自分自身、あるいは近親者の死が1年以内に訪れる警告とされます。この不吉なイメージは、J.K.ローリングの『ハリー・ポッター』シリーズに登場する死神犬「グリム」のモデルになったと言われています。
現代の解釈
一説には、密輸業者たちが夜間に荷物を運ぶ際、村人が出歩かないように流した噂話が元になっているとも言われます。しかし、今なお目撃談が絶えないこの怪物は、単なる作り話にしてはあまりにも多くの人々を震え上がらせてきました。
まとめ
ブラック・シャックは、冬の夜の嵐に対する恐怖と、死への不安が形となった、イギリス伝承の中でも最も不気味で魅力的なモンスターの一つです。