夜、窓の外から女性のすすり泣く声が聞こえる……それは家族の死を告げる「バンシー」の訪問かもしれません。現代のゲームでは「叫び声で攻撃する悪霊」として描かれがちな彼女たちですが、本来のアイルランド伝承では、名家に取り憑く守護霊に近い存在でした。その悲しき姿の真実に迫ります。
バンシーとは?
妖精の丘の女
バンシー(Bean Sidhe)は、ゲール語で「妖精の丘( シー)の女」を意味します。アイルランド等のケルト圏に伝わる女性の妖精で、長い髪を垂らし、緑色のドレスに灰色のマントを羽織った姿で描かれます。老婆であったり、美しい乙女であったりと、目撃談によって姿は様々です。
死のメッセンジャー
彼女たちの役割は、特定の家系(「O'」や「Mac」のつく旧家)の人間が死ぬ間際に現れ、悲痛な声で泣くことです。これは呪いではなく、死者への弔い(キーニング)であり、一種の名誉なこととされていました。
血まみれの洗濯
小川での洗濯
バンシーに類似した存在に、スコットランドの「ビーン・ニジェ(洗濯する女)」がいます。彼女は川辺で血に染まった衣服を洗っており、それを見た者は近いうちに死ぬと言われています。この伝承が混ざり合い、バンシーもまた「死者の衣を洗う姿」で描かれることがあります。
櫛(くし)のタブー
バンシーは長い髪を櫛で梳かすのを好みます。アイルランドでは、道端に落ちている櫛を拾うことを極度に恐れます。もしそれがバンシーの櫛だった場合、持ち主を取り戻しにやってきて、恐ろしい報復(家を取り壊されるなど)を受けると信じられているからです。
現代作品でのバンシー
物理攻撃化する「叫び声」
TRPGやビデオゲームにおいては、「嘆きの泣き声」が「鼓膜を破る衝撃波(ソニックブーム)」や「即死効果のある呪いの叫び」へと戦闘的にアレンジされています。「死を告げる」という受動的な役割が、「死をもたらす」という能動的な攻撃能力へと変化した好例です。
なぜか敵キャラ
本来は人間に危害を加える存在ではありませんが、その不吉なイメージからアンデッドや悪霊の一種として扱われることが多いです。しかし、その悲哀に満ちたバックストーリーから、悲劇のヒロインとして描かれることもあります。
【考察】バンシーの正体
先祖の霊?
バンシーは特定の家系にしか現れないことから、その家を見守る祖霊(守護霊)の一種ではないかと考えられています。彼女たちが泣くのは、愛する子孫の死を誰よりも悲しんでいるからなのかもしれません。
まとめ
恐怖の叫び声か、それとも愛の涙か。バンシーは、死という避けられない運命を、厳かに、そして情熱的に告げる存在なのです。