『平家物語』の中でも特に美しく、有名なエピソード「扇の的」。その主役が那須与一宗高です。源義経に従って平家追討の戦に参加し、屋島の浜辺で繰り広げられた、敵味方が見守る中での一世一代のパフォーマンス。揺れ動く小舟の上に掲げられた紅の扇を、ただ一矢で射抜いた彼の偉業は、武士の誉れとして800年以上語り継がれています。
屋島の奇跡
南無八幡大菩薩
夕暮れの屋島の海。平家の船から、竿の先に紅の扇を掲げた小舟が現れ、「これを射てみよ」と挑発しました。「外せば源氏の末代までの恥、自害する他なし」という極限のプレッシャーの中、義経に命じられた与一は馬を海に乗り入れます。 「南無八幡大菩薩、日光の権現...願わくばあの扇の真ん中を射させてたばせたまえ」 目を閉じて祈り、目を見開いて矢を放つと、鏑矢は唸りを上げて飛び、見事に扇の要を射切りました。扇は空へ舞い上がり、海へひらりと落ちる。この美技には敵の平家も船端を叩いて称賛し、味方の源氏は箙(えびら)を叩いてどよめいたといいます。
弓のサラブレッド
与一は下野国(現在の栃木県)那須氏の出身。幼い頃から弓の腕は百発百中で、「空を飛ぶ鳥でさえ、狙えば必ず落とす」と言われるほどでした。11人兄弟の11番目(余一)でしたが、その才能ゆえに義経の目にとまり、歴史の表舞台に立つことになりました。
その後
一族の繁栄
この功績により、与一は源頼朝から荘園を与えられ、那須家は戦国時代から江戸時代まで続く名家となりました。しかし、与一自身の晩年は出家して「源心」と名乗り、源平の戦いで亡くなった人々の菩提を弔う旅に出たとも伝えられています。
ドリフターズ
平野耕太の漫画『ドリフターズ』では、異世界に召喚された「漂流者」の一人として登場。エルフたちに弓を教え、若く美形ながらも戦闘狂(バトルマニア)で、飄々とした性格のキャラクターとして描かれ、新たな人気を博しています。
まとめ
たった一矢で歴史に名を刻んだ那須与一。その集中力と精神力は、弓道の極意として、また勝負強さの象徴として、現代でも尊敬の対象となっています。