「ムスヒ(産霊)」の力をその名に宿す女神、熊野夫須美神(クマノフスミ)。熊野那智大社の主祭神であり、那智の滝そのものとも深く関わっています。「フスミ」は「むすび(結び)」に通じ、男女の縁だけでなく、天地万物の生命を結びつけ、生み出し、育てる偉大な母性の象徴です。多くの説で、国生みの母神イザナミと同一神と見なされています。
生命を「結び、増やす」神
名前の意味
「フスミ」という言葉は、「息吹(いぶき)」や「棲(す)む」と同根であり、生命力が旺盛に増えていく様子を表していると言われます。このことから、農業の豊作、子孫繁栄、そして人の縁を結ぶ神として信仰されています。
千手観音との習合
神仏習合の時代、彼女は慈悲の仏である千手観音の化身とされました(現世利益を司る)。那智の滝の圧倒的な水量と迫力は、尽きることのない母神の生命力そのものと考えられたのです。現在でも那智大社では「えんむすびの糸」などが授与されており、人と人、人と神を結ぶ架け橋となっています。
熊野三山の赤
熊野本宮(スサノオ=阿弥陀)、熊野速玉(ハヤタマノオ=薬師)に対し、那智(フスミ=千手観音)は、すべてを受け入れ救済する母性的な側面を担っています。八咫烏(ヤタガラス)の導きとも関連が深く、人生の目的へと人々を導き、そこで「結実」させる力を持っています。
まとめ
すべての生命は、見えない糸で結ばれています。熊野夫須美神は、その糸を紡ぎ、私たちが孤独でないことを教えてくれる慈愛の女神です。