不死身に近い肉体を持ち、12の難業を成し遂げた大英雄ヘラクレス。彼を最期に葬ったのは、強力なモンスターではなく、愛する妻から贈られた「一枚の服」でした。ネッソスの衣は、嫉妬と欺瞞によって生まれた、神話史上最も有名な毒殺兵器です。
ケンタウロス族ネッソスの罠
渡守ネッソスの企み
ヘラクレスと妻デイアネイラが川を渡ろうとした際、渡守をしていたケンタウロスのネッソスがデイアネイラを襲おうとしました。ヘラクレスは即座に、かつて倒したヒュドラの猛毒を塗った矢でネッソスを射抜きます。
最後の嘘
死に際のネッソスは、デイアネイラにこう囁きました。「私の血を集めておきなさい。夫の愛が冷めた時、これを服に染み込ませれば、強力な媚薬となって愛を取り戻せる」と。しかし、その血にはヒュドラの猛毒が混ざっていたのです。
皮膚を焼き尽くす苦痛
英雄の最期
数年後、ヘラクレスが他の女性に心を移したと不安になったデイアネイラは、ネッソスの言いつけ通り「血に染まった衣」を夫に送りました。ヘラクレスがそれを着た瞬間、体温で毒が活性化し、皮膚に張り付いて肉を腐らせ始めました。脱ごうとすれば肉ごと剥がれる激痛に、さしもの大英雄も絶叫し、最後は自ら薪を積んで火葬され、死を選びました。
逃れられない災厄の代名詞
慣用句としての「ネッソスの衣」
西洋文学において「Shirt of Nessus」は、「逃れられない苦痛」「恩着せがましいが破滅をもたらす贈り物」の隠喩として使われます。Fateシリーズでも、アルケイデスの宝具としてその毒性が再現されています。
まとめ
愛を取り戻すための贈り物が、愛する人を最も苦しめて殺す結果となる。ネッソスの衣の物語は、嫉妬心を利用したケンタウロスの復讐が、死後数年を経て完成したという、執念の恐ろしさを物語っています。