1916年のサンクトペテルブルク。凍てつくネヴァ川から引き揚げられた死体は、ロシア帝国崩壊の序曲でした。グリゴリー・ラスプーチン。シベリアの貧しい農民出身の彼は、自らを「神の人」と称し、血友病に苦しむ皇太子アレクセイの出血を祈祷で止める「奇跡」を起こしたことで、皇帝ニコライ2世と皇后アレクサンドラの絶大な信頼を勝ち取りました。彼は宮廷内で権勢を振るい、大臣の任命権まで左右するようになり、「影の皇帝」「聖なる悪魔」と恐れられました。
怪僧の不死身伝説
殺しても死なない男
彼を国害とみなしたユスポフ公ら貴族グループは、暗殺パーティを企画しました。まず食事に致死量の青酸カリを混ぜましたが、ラスプーチンは平然と食べ続けました(胃切除後の無酸症で毒が効かなかった説あり)。驚愕したユスポフが背後からピストルで撃ち抜きましたが、彼は起き上がり、襲いかかってきました。逃げ出した彼をさらに銃撃し、殴打し、絨毯にくるんで川に投げ込みました。検死の結果、肺から水が検出され、死因は「溺死」だったとされています。つまり、彼は川の中でもまだ息をしていたのです。
巨根の噂
彼が多くの女性信者と不適切な関係を持っていたことは有名で、彼自身の教義も「罪を犯すことで救済される(悔い改める機会が得られる)」という異端的なものでした。彼のものとされる巨大な性器の標本が、サンクトペテルブルクの性科学博物館に展示されているという都市伝説は、彼の怪物性を象徴するエピソードとして語り継がれています。
現代への影響と伝承
ポップカルチャーでの再解釈
グリゴリー・ラスプーチンの伝説は、現代のエンターテインメント作品において頻繁に取り上げられています。特に日本のゲームやアニメ(『Fate/Grand Order』など)では、史実や伝承の特徴を色濃く反映しつつも、大胆な独自の解釈を加えたキャラクターとして描かれることが多く、若い世代にその名を知らしめるきっかけとなっています。史実の重みとファンタジーの想像力が融合することで、新たな魅力が生まれているのです。
阿頼耶識(アラヤシキ)としての側面
伝説の英雄たちは、人々の集合的無意識(阿頼耶識)に刻まれた「元型(アーキタイプ)」としての側面を持ちます。グリゴリー・ラスプーチンが象徴する反英雄 / 僧侶としての性質は、時代を超えて人々が求める理想や、あるいは恐れを具現化したものと言えるでしょう。物語の中で彼らが語り継がれる限り、その魂は不滅であり、私たちの心の中で生き続けていくのです。
歴史と伝説の狭間で
私たちが知るグリゴリー・ラスプーチンの姿は、同時代の一次資料に残された実像とは異なる場合があります。長い年月の中で、口承文学や後世の詩人・作家たちの創作によって脚色され、時には超自然的な能力さえ付与されてきました。しかし、そうした「虚構」が混じり合うことこそが、英雄を単なる歴史上の人物から「伝説」へと昇華させている所以であり、歴史の教科書だけでは語り尽くせない魅力の源泉なのです。
まとめ
ロシア史におけるグリゴリー・ラスプーチンの役割は非常に興味深いものです。その伝承を深く知ることで、当時の人々の世界観を垣間見ることができるでしょう。