ヴァイキング史上、最も恐れられ、かつ最も謎に満ちた人物。それが「骨なしアイヴァル」です。身体的なハンディキャップを抱えながらも、それを補って余りある残虐な知性とカリスマ性で「大異教徒軍」を指揮し、イングランドの諸王国を恐怖のどん底に陥れました。
「骨なし」の謎
身体的特徴の諸説
「骨なし(The Boneless)」という異名の由来には多くの説があります。軟骨無形成症(コラーゲン形成不全)により歩行が困難だった説、ED(勃起不全)を揶揄した説、あるいは逆に「骨がないかのように柔軟な身のこなし」を持っていたという説です。
しかし、サガの記述では彼は「輿(こし)」や「盾」に乗って運ばれたとあり、脚が不自由であった可能性が高いとされています。それでも彼は弓の名手であり、戦場では高所から軍全体を見渡し、的確かつ冷酷な指示を飛ばす司令官として畏怖されました。
血の鷲(ブラッド・イーグル)
父の復讐
父ラグナル・ロズブロークを処刑したノーサンブリアのエラ王に対し、アイヴァルは極めて特異で惨たらしい処刑「血の鷲」を行ったと伝えられています。これは背中を切り開き、肋骨を脊椎から切り離して左右に広げ、そこから肺を引き出して「翼」のように見せるというものです。歴史学的にはその実在性が議論されていますが、この伝説はアイヴァルの残虐性を象徴するものとして定着しています。
狂気と天才の軍略
心理戦の達人
アイヴァルは単なる狂戦士(バーサーカー)ではありませんでした。彼は敵を恐怖で支配する心理戦の達人であり、また巧みな外交術で敵の同盟を分断しました。イースト・アングリア王サドマンドを射殺の刑に処した際も、キリスト教徒の信仰心を逆手に取った恐怖演出を行いました。
彼の指揮する軍隊は、当時のイングランド人にとって「神の罰」そのものでした。彼の死後、その遺体は「侵略者が通る道」に埋葬され、彼の骨がある限り敵は上陸できないという呪いを残したとも言われています。
まとめ
骨なしアイヴァルは、ヴァイキングの暴力性と知性の極地を体現した存在です。その不可解な異名と行いは、千年の時を超えてなお、聞く者に底知れぬ恐怖と畏敬の念を抱かせます。