広大な太平洋に点在する島々、ポリネシア。その創世神話において、最も古く、そして最も偉大な存在として語られるのがタンガロアです。彼は単なる海の神ではありません。世界そのものが未だ暗闇に包まれていた頃、自らを包む貝殻の中で永遠の時を過ごし、やがてその殻を破って天地を分かち、宇宙を創造した始原の神です。すべての魚、爬虫類、そして海に生きる者たちの父であり、その呼吸は潮の満ち引きとなり、その怒りは荒れ狂う嵐となります。彼を知ることは、ポリネシアの人々が海といかに深く結びつき、畏敬の念を抱いてきたかを知ることに他なりません。
貝の中から始まった世界
暗黒からの脱出
多くのポリネシア神話において、世界は最初、暗黒(ポー)と静寂に包まれていました。タンガロアは、その中で「ルム」と呼ばれる巨大な貝の中に存在していました。果てしない時間の後、彼は自らの意志で貝殻を押し開きました。飛び散った貝殻の上部は空となり、下部は大地となり、彼の汗は海となりました。こうして、混沌とした宇宙に初めて秩序と空間がもたらされたのです。
創造の建築家
彼は世界を作り上げた後、最初の人間を創り出したとも言われています(伝承によっては彼の息子ティキが作ったとも)。サモアの伝承では、彼は天界のさらに上にある「第9の天」に住み、そこから世界を見守る至高神として崇められています。彼の創造は完璧であり、自然界のすべての調和はタンガロアの意志によって保たれているのです。
森の神タネとの対立
兄弟神との確執
ニュージーランドのマオリ神話においては、タンガロアは海の神として、森の神タネと激しく対立する関係にあります。伝説によれば、最初の人間の親である空の父と大地の母を引き離すべきか否かで兄弟神たちは争いました。この時、森の神タネが両親を引き離したことにタンガロアは怒り、海へと去りました。
永遠の闘争
それ以来、海(タンガロア)は陸(タネ)を侵食しようと波を打ち寄せ、陸(タネ)は木々を使ってカヌーを作り、網を編んで海の子供たち(魚)を捕らえることで対抗しています。この神話は、自然界における海と陸の終わりなき闘争とバランスを見事に表現しており、人間が海で漁をする行為そのものが、神々の戦いの一部であると考えられているのです。
まとめ
タンガロアは、創造主としての威厳と、荒ぶる海の化身としての恐ろしさを併せ持つ神です。彼への祈りは、航海の安全を願う人々にとって欠かせないものであり、その名は広大な太平洋の波音と共に、永遠に語り継がれていくでしょう。