バビロニアやアッシリアで恐れられた ネルガル は、死、疫病、そして戦争をもたらす破壊的な神です。元々は真昼の焼き尽くす太陽(南の太陽)を象徴する神でしたが、ある事件をきっかけに冥界へ降り、そこの女王エレシュキガル を武力で脅して妻とし、冥界の王の座に就きました。愛ではなく力による征服という、極めて荒々しいエピソードを持つ神ゆえに、人々は災厄を避けるために彼を熱心に祀りました。
冥界下りの神話
招待拒否と謝罪
神々が宴を開いた際、冥界の女王エレシュキガルの使者に対し、ネルガルだけが敬意を払いませんでした。これに激怒したエレシュキガルはネルガルの引き渡しを要求します。父エンキ神の助言を受け、ネルガルは護衛の悪霊たちを引き連れて冥界へ乗り込みました。
女王の征服
普通の神話ならここで捕まるところですが、ネルガルは逆に冥界の門番をなぎ倒し、宮殿に押し入ると、エレシュキガルの髪を掴んで玉座から引きずり下ろし、首を切り落とそうとしました。女王は命乞いとともに求婚し、ネルガルはこれを受け入れ、冥界の王となったのです。
ライオンと棍棒
破壊の象徴
図像学的には、ライオンの頭を持つ人間、またはライオンそのものの姿で表されます。手には大鎌や棍棒、あるいは三つ又の矛を持ち、死をもたらす権能を強調しています。疫病神「エラ」とも同一視され、戦争による破壊と疫病による大量死を司る、都市や国家にとって最大の脅威となる神でした。
現代への系譜
悪魔学におけるネルガル
キリスト教の悪魔学において、ネルガルは地獄の支配者の一人、あるいは秘密警察の長官として扱われることがあります。疫病を撒き散らす死神のイメージは、中世以降のグリモワールにも引き継がれました。
ポップカルチャー
『ウォーハンマー40,000』の渾沌の神ナーグル(Nurgle)の名前や性質は、明らかにこのネルガルをモデルにしています。腐敗と死を司るその姿は、古代メソポタミアの恐怖が現代に形を変えて蘇ったものと言えるでしょう。
まとめ
ネルガルは、避けようのない「死」と「破壊」の具現化です。しかし、その圧倒的な力は、逆に味方につければ最強の守護にもなり得ます。古代の人々は、この気性の荒い王を鎮めることで、平穏を願ったのです。