イェーケロプテルス(Jaekelopterus)は、デボン紀前期(約3億9000万年前)のドイツや北米の汽水域・淡水域に生息していた、史上最大級のウミサソリです。学名は「イェーケルの翼」を意味します。発見された巨大なハサミの化石から推定される全長は2.5メートルを超え、アースロプレウラと並んで「史上最大の節足動物」のタイトルホルダーとして知られる怪物です。
46センチの処刑バサミ
イェーケロプテルスの最大の特徴にして最強の武器は、長さ46センチにも達する巨大な鋏角(きょうかく:ハサミ)です。これはカニやサソリの比ではなく、人間の腕ほどの長さがありました。このハサミには鋭い歯が並んでおり、一度挟まれたら逃げることは不可能でした。彼らは獲物である甲冑魚(プテラスピスなど)をこのハサミで一瞬にして切断したり、硬い装甲を粉砕したりして捕食していました。
川に潜む恐怖
ウミサソリという名前ですが、彼らは海ではなく、主に川や湖、河口の干潟のような場所に生息していました。当時の淡水域には大型の脊椎動物がいなかったため、イェーケロプテルスは天敵のいない環境で思う存分巨大化することができました。濁った水底に潜み、近づいてきた魚を電光石火の早業で襲う姿は、まさに水中の死神でした。
複眼のハンター
頭部には発達した複眼があり、視力も優れていました。これは彼らが待ち伏せだけでなく、積極的に獲物を追いかけるハンターだったことを示唆しています。彼らの繁栄はデボン紀の終わりまで続きましたが、魚類が進化して大型化し、陸上への進出が始まると、その役割を終えるかのように姿を消しました。
共食いも辞さない食欲
化石に残された痕跡や傷から、彼らは同種同士でも激しく争い、時には共食いをしていた可能性も指摘されています。限られた水域の中で頂点捕食者として君臨し続けるためには、強者のみが生き残る熾烈な競争があったのでしょう。その獰猛さは、節足動物の歴史の中で頂点に達していたと言えます。
まとめ
イェーケロプテルスは、節足動物が地球の覇権を握っていた時代の到達点です。もし人間がデボン紀の川で泳いだなら、この巨大なハサミの最初の一撃で命を落としていたでしょう。