インドハイウス(Indohyus)は、約4800万年前(始新世)のインド(カシミール地方)に生息していた、小型の偶蹄類です。「インドの豚」という意味の名を持ち、アライグマやマメジカに似た外見をしていました。一見するとクジラとは無縁に見えますが、現在ではクジラ類に最も近い姉妹群、あるいはクジラの祖先に極めて近い生物とされています。
水への逃避
骨の密度が非常に高く、これは水中で体が浮きすぎないようにする「バラスト」の役割を果たしていたと考えられます(カバやマナティーと同じ特徴)。彼らは危険を感じると水中に飛び込み、水底を歩いて逃げていたようです。この「水への逃避行動」こそが、後のクジラ類への進化の第一歩でした。
草食のクジラ祖先
従来、クジラは肉食のメソニクス類から進化したと考えられていましたが、インドハイウスの発見により、草食の偶蹄類から進化した説が確定的となりました。彼らの歯は植物食の特徴を示しています。つまり、クジラの祖先は、水中で魚を捕るために水に入ったのではなく、敵から逃げるために水に入り、その後で食性を変えていった可能性があります。
耳骨の証拠
外見は陸生動物ですが、耳の骨(耳骨胞)の構造がクジラ特有のものと一致しており、これが彼らをクジラの近縁種とする決定的な証拠となりました。進化の鍵は、目に見える姿よりも骨の中に隠されているのです。
まとめ
インドハイウスは、クジラの陸生時代の最後の姿を伝える、生きた化石ならぬ「進化の証人」です。小さな彼らの水遊びが、やがて地球最大の動物を生み出すことになるとは、誰も想像しなかったでしょう。