西洋のドラゴンが一頭一首であるのに対し、東欧ロシアのドラゴン「ズメイ」は多頭であることが特徴です。その中でも最強とされるのが、三つの首を持つ魔竜ズメイ・ゴリニチ。「山の息子」を意味する名を持つこの怪物は、恐怖と破壊の化身です。
ズメイ・ゴリニチの特徴
三つの首と七つの尾
最も一般的な描写では、彼は三つの首を持つとされていますが、物語によっては六つ、九つ、さらには十二の首を持つ最強のドラゴンとして描かれることもあります。また、七つの長い尾を持ち、口からはあらゆるものを焼き尽くす猛火を吐き出します。単なる野獣ではなく、人間を誘拐しては洞窟に連れ去り、恐怖によって支配する典型的な「悪いドラゴン」です。
知性を持つ怪物
ズメイ・ゴリニチは高い知能を持っており、人間の言葉を理解し、話すことさえできます。英雄に対して狡猾な取引を持ちかけたり、命乞いをしたりするなど、人間臭い一面も見せますが、基本的には邪悪で約束を破ることも厭わない卑劣な性格として描かれます。
英雄ドブルイニャとの戦い
プチャイ川の決闘
ロシアの叙事詩(ブィリーナ)において、英雄ドブルイニャ・ニキーティチとの数度にわたる戦いが有名です。最初の戦いでは、ドブルイニャは武器を持っていませんでしたが、「ギリシャの帽子」(教会の帽子とも)を使ってズメイを打ち負かしました。この時ズメイは「もう二度とロシアの地を荒らさない」と命乞いをして許されましたが、すぐに約束を破って姫(ザバヴァ・プチャチシチ)を誘拐したため、再戦の末に退治されました。
象徴としてのズメイ
遊牧民族のメタファー
歴史的な観点からは、当時のキエフ大公国を脅かしていた遊牧民族(タタール人など)の襲撃を、多頭のドラゴンとして怪物化したものではないかという説があります。複数の首は、多方向から攻めてくる軍勢を表しているのかもしれません。
まとめ
ズメイ・ゴリニチは、厳しいロシアの自然環境と、外敵への恐怖が生み出した、究極の悪役なのです。