夜の京都、大通りをガラガラと凄まじい音を立てて転がってくる、炎に包まれた巨大な車輪。その中央には、苦悶の表情を浮かべた禿頭の男の巨大な顔が埋まっている。それが輪入道です。その姿を見るだけで魂を抜かれるとされる、恐るべき怪異です。
車輪と生首の怪物
似て非なるもの「片輪車」
輪入道と同様に車輪の妖怪として「片輪車(かたわぐるま)」がありますが、こちらは車輪に乗った女性の姿で描かれることが多いです。一方、輪入道は鳥山石燕の『画図百鬼夜行』に描かれたように、車輪と顔が一体化した男性の姿が一般的です。その眼光は鋭く、口からは炎を吐き、通りかかった人間の魂を抜き取ると言われています。
見たら最後
ある伝説によれば、興味本位で輪入道を覗き見た女が、足元に人間の脚がぶら下がっているのを目撃します。恐ろしくなって家に帰ると、自分の子供の脚が食いちぎられて無くなっていた、という凄惨なエピソードが残っています。「見る」という行為自体がトリガーとなって災いをもたらすのです。
奇妙な魔除け「此所勝母の里」
親孝行な心?
輪入道を追い払うとされる唯一の呪文が**「此所勝母の里(ここはしょうぼのさと)」**という紙を家の戸口に貼ることです。これは中国の儒教の教えに基づき、「曾子(孔子の弟子)は『母に勝る』という名の里には、親不孝な名前だとして足を踏み入れなかった」という故事に由来します。 なぜ日本の妖怪である輪入道が、中国の儒教的な親孝行のエピソードを恐れるのかは謎ですが、彼にも意外な教養や道徳心があるのかもしれません。
車輪妖怪の代名詞
地獄少女
アニメ『地獄少女』では、主人公・閻魔あいに仕える三藁の一人として登場しました。普段は強面の老人ですが、必要に応じて巨大な車輪の姿に変身し、あいを乗せて地獄へと運びます。渋いキャラクターとして描かれ、新たなイメージを確立しました。
ゲームでの敵役
『大神』や『仁王』などの和風アクションゲームでは、高速で突進してくる厄介な敵として登場します。そのビジュアルインパクトは絶大で、一度見たら忘れられないデザインとして重宝されています。
【考察】車輪=地獄への循環
火車との関連
燃える車輪は、仏教における「火車(生前に悪事を働いた亡者を地獄へ運ぶ車)」を連想させます。輪入道は、罪人の魂を回収し、永遠に終わらない苦しみ(輪廻)の中へと引きずり込む、地獄からの使者だったのかもしれません。
まとめ
輪入道は、単なる怪物ではなく、罪や業(カルマ)を運ぶシステムの象徴でもあります。夜中に車輪の音が聞こえても、決して正体を確かめようとしてはいけません。